研究課題/領域番号 |
15K01251
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宮縁 育夫 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (30353874)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 斜面崩壊 / 土石流 / テフラ層序 / 歴史学的調査 / 災害発生履歴 / 火山 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,阿蘇火山における過去の斜面災害の形態や発生履歴をテフラ層序学的に検討した.現地調査を実施したのは,阿蘇カルデラ東側壁直下の砂防堰堤掘削断面であり,その観察結果から以下のことが明らかとなった. 調査した断面に露出する堆積物は,石礫に富む基質支持の土石流堆積物と未固結なテフラ片や土壌片を多く含む岩屑なだれ堆積物の2つに区分され,前者は5層,後者は2層確認された.そのなかで,下位の岩屑なだれ堆積物は掘削断面のほぼ全面(幅約70 m)にわたって露出するもっとも特徴的な堆積物で,径数cm~数10 cmのテフラ片や土壌片が多量に含まれるとともに,それらが著しく褶曲したり分断するなどの変形構造が観察された.この堆積物は水で運搬された形跡が認められないことから,大きな地震に伴うものと推定された. 発見された堆積物間に挟在する年代既知の火山灰層や埋没土壌層の放射性炭素年代値から,豪雨に伴う土石流は400~1800年間隔で起こっていることがわかった.ただ,同じ豪雨であってもすべての渓流で土石流が発生するとは限らないため,阿蘇カルデラ壁全体ではより高い頻度で豪雨に伴う斜面崩壊と土石流が発生しているものと考えられる.一方,調査したカルデラ壁斜面では岩屑なだれが最近6300年間に2回発生していることが明らかとなった.2016年熊本地震による崩壊・岩屑なだれを含めると,少なくとも2000年間に1回程度,こうしたマスムーブメントが起こっていることになる.今回発見されたような岩屑なだれ堆積物は過去の大きな地震の発生を示唆している可能性があるが,中部九州の活断層群における地震の発生頻度については今後の活断層調査などとも関連させて詳細に検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年熊本地震の影響が小さい地域での現地調査は可能になっているが,道路の寸断や安全上の問題から,今なお立入や調査が実施できない地域が多数存在している.
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今後の研究の推進方策 |
熊本地震によって甚大な被害が生じた阿蘇火山周辺域では道路網が復旧してきており,場所によっては現地調査が可能な状況になりつつある.したがって,次年度は現地調査に基づく過去の斜面災害発生頻度やメカニズムの検討とともに,今年度購入したデジタルマイクロスコープを駆使して採取試料の詳細な観察や各種分析を行う.また,古文書調査などの歴史学的調査も継続して実施し,研究課題全体のとりまとめにむけて全力で取り組む..
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年熊本地震による被害や安全上の問題から,阿蘇火山での現地調査の実施が難しい状況となり,進捗状況がやや遅れている.地層の年代や過去の土砂災害発生履歴を高精度に把握するために,多数の放射性炭素年代測定を実施する予定であったが,現地調査が十分に行えなかったため,試料が得られず,分析を依頼することができなかった.しかしながら,熊本地震によって甚大な被害が生じた地域では道路網が復旧してきており,現地調査が可能な状況になりつつある.次年度には本研究の目的を達成するために必要な放射性炭素年代測定用試料の発見に努めるとともに,研究補助も活用して課題全体のまとめにむけて全力で取り組む予定である.
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