わが国は台風や前線等による豪雨発生頻度が極めて高く,毎年のように土砂災害が発生しており,とくに火山地域においては未固結な火山砕屑物(テフラ)が広く分布していることから,日常的に土砂災害の脅威にさらされている.本研究の目的は,わが国に広がる火山地域で多発するテフラ斜面の崩壊現象について,どのようなメカニズムで発生するのか,過去においてどの程度の頻度で起こっているのかをテフラ層序学的調査と古文書等による歴史学的調査によって解明し,将来の防災計画のための基礎資料を提供することである.研究期間全体を通じて得られた成果は以下の通りである. 調査対象としたのは,2012年7月の阿蘇カルデラおよび2013年10月の伊豆大島における土砂災害であり,いずれの斜面崩壊もすべり面下位のテフラ層が上位のテフラ層に比べて,細粒成分に富んで堅く締まっており,さらに透水性も低いことがわかった.つまり,こうしたすべり面上下での粒度組成・硬度・透水性の差異が斜面崩壊の原因になったと考えられる. つぎに,阿蘇火山周辺域における過去の斜面災害について歴史資料等を精査し,その発生要因や発生地点の分布について検討した結果,崩壊の起こっている地点の周辺地域では斜面災害が何度も繰り返し起こっていること,地域的には阿蘇カルデラの北東部で斜面崩壊の発生頻度が高いことが明らかになった.斜面崩壊が多発している地域のカルデラ壁はAso-1およびAso-2火砕流堆積物からなる急崖斜面やその下位に巨礫が混在する不安定な崖錐斜面を有しているなどの地質学的特徴が認められ,こうしたことが斜面崩壊発生と密接に関係していると推察された.また,発見された堆積物間に挟在する年代既知のテフラ層や埋没土壌層の放射性炭素年代値から,同一斜面において豪雨に伴う崩壊や土石流は少なくとも400~1800年間隔で起こっていることが判明した.
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