山地流域において豪雨に伴う大規模な土砂生産が生ずると,その後活発な土砂流出がある期間続くことが多い。その土砂流出の推移を予測することは,流域の土砂管理上,重要な課題である。しかし,土砂流出の継続・鈍化等の推移,それに影響する要因についての知見は少ない。本研究の目的は,大規模土砂生産後の土砂流出の推移を長期観測によって調べ,土砂流出に影響する要因との応答関係を含めた土砂の動態を明らかにすることである。 試験地のパラダイ川とルベシュベナイ川ともに,2006年豪雨による大規模な土砂堆積以降,2011年まで活発な河床洗掘が継続し,2012年からは洗掘が少量となった。その後,2016年豪雨により再び土砂堆積が発生したが,直近の2017年までは洗掘が未だ少量で,現在に至る。この間,2006年と2016年を除く各年の降雨状況には大きな違いはなかった。 2006年以降の土砂移動量に関し,区間全体で集計すると,パラダイ川(区間長1.8km)とルベシュベナイ川(同2.3km)ともに,2006年の土砂増加量とその後の2011年までの5年間の土砂減少量合計とはほぼ同量であった。しかし,堆積や洗掘の発生量は区間内で一様ではなかったことから,区間をいくつかに分割して集計すると,小区間ごとの土砂収支は正と負の両方が認められた。したがって,洗掘が5年間を経て鈍化したのは,土砂量の増加分が洗掘によってゼロに解消されたことのみが理由ではないと考えられる。 土砂堆積後に洗掘の進行によって,河床横断形は平坦から溝状流路へと変化し,河床材料は細粒から澪筋での粗粒化が生じた。以上より,測線あるいは小区間といった小さな単位ごとに流路の安定化が達成され,それら小単位ごとの土砂収支には正と負があるが,区間全体で集計すると洗掘量の合計は堆積による土砂増加分と掛け離れることなくほぼ近似する,という興味深い特徴が認められた。
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