山地の森林には流下する雪崩の進行を妨げ、速度を落として破壊力を弱めることにより雪崩災害を軽減する機能がある。雪崩に対する森林の減勢効果は、経験的には知られているが、定量的には評価されていない。そこで本研究では、森林の雪崩に対する減勢効果の解明を目的とした。 本研究では,運動モデルを用いて雪崩の流下を再現し、森林の減勢効果を数値シミュレーションによって確かめた。対象としたのは妙高山域幕ノ沢および岩手山において発生した大規模な雪崩で、幕ノ沢ではスギ林、岩手山では亜高山帯林が倒壊したが、いずれの雪崩も森林内で停止した。運動モデルでは、雪崩の流下に対する森林の抵抗を、底面摩擦角を大きくすることにより表わした。現地調査の結果に基づいて試行錯誤した結果、幕ノ沢の雪崩の底面摩擦角は、林外では 13~14°、林内では 25°とすると実際の雪崩の流下をよく再現できることがわかった。岩手山の雪崩についても同じ方法で流下を計算し、実際の雪崩をよく再現できることが確かめられた。そこでこのモデルを用いて森林がない場合を仮定してシミュレーションした結果、雪崩は実際の到達点より、幕ノ沢では200 m以上、岩手山では200~600 m以上も遠くまで流下し、雪崩に対する森林の減勢効果を明瞭に示すことができた。 この成果をまとめた論文は、国際雪氷学会発行のAnnals of Glaciologyに掲載された。解説文は日本森林学会発行の森林科学に掲載され、研究成果の普及を図る目的を達成した。なお、幕ノ沢においては雪崩検知観測を継続して行なったが、2019~2020年冬期に雪崩の発生は確認されなかった。
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