研究課題/領域番号 |
15K01273
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
足立 アホロ 気象庁気象研究所, 気象衛星・観測システム研究部, 主任研究官 (80354520)
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研究分担者 |
石元 裕史 気象庁気象研究所, 気象衛星・観測システム研究部, 室長 (70281136)
南雲 信宏 気象庁気象研究所, 気象衛星・観測システム研究部, 研究官 (30624960)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 二重偏波レーダー / 降水の粒径分布 / 降水強度推定 |
研究実績の概要 |
近年多発している「局地的大雨」は数値モデルによる予測がまだ困難なため、事前に気象レーダーによる観測で捉えることが重要である。通常の気象レーダーはアンテナから電波を発射し、雨粒に反射され戻ってきた信号の強さから降水強度を推定している。しかしこの方法は誤差が100%にも及ぶことがある。これは降水強度が単位体積の大気中の雨粒の大きさとその数(粒径分布)に依存するため、信号の強さだけでは精度よく推定することができないためである。そこで本研究では、二重偏波レーダーのデータから雨の粒径分布を推定する手法の開発をしている。特に、レーダーで観測された偏波パラメータだけを用いて、理論的に粒径分布を推定するという、従来は困難とされていた手法を開発し、その結果について国際学術誌に投稿/公開した (Adachi et al. 2015)。今年度は粒径分布の推定に電波減衰とアンテナの仰角の影響を補正する手法を組み込んだ。さらに気象研究所の二重偏波レーダーのデータに応用し、推定した粒径分布や降水強度を地上観測と比較して検証を行った。またアルゴリズムを改良して高速化し、レーダーデータの実時処理と実時校正を行う手法を開発し、国際学会で発表した。更に開発した手法をドイツ気象局のレーダーに応用し、数値モデルに最適な粒径分布のモデルについて検討した結果を国際学術誌に投稿/公開した (Kawabata et al. 2018)。 一方、これまでに開発したアルゴリズムは雨滴のみを対象とし、雪やあられなどの氷粒子は考慮していない。しかし実際の上空では氷粒子が融解して雨粒に変わる場合もある。そこで氷粒子の粒径分布の推定などが可能となった場合を想定して氷粒子の散乱粒子モデルを開発するため、積雪のX線マイクロCTデータから積雪粒子の詳細な3次元構造を抽出するアルゴリズムを開発し、抽出した形状を使った雪片のモデル化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは、レーダーで観測された偏波パラメータだけを用いて、理論的に粒径分布を推定する手法を開発することである 。過去これまでに提案されている同様な手法は、いずれも経験式や近似式などを用いている。しかし経験式や近似式は雨の種類や場所、時刻、雨滴の温度(気温)によって変わることが理論的には明らかであり、推定される降水強度の精度は不十分であった。そこで本研究ではこれまで開発したレーダーシミュレーターの計算を元に二重偏波レーダーの観測から粒径分布を理論的に推定するという新しい手法を、これまでに開発することができた。当初はマニュアルで最適値を決める部分があり、解析に時間がかかるという問題があった。そこで最適値の選択を自動化し高速化を進め、今年度は粒径分布の推定アルゴリズムと、電波の減衰補正・アンテナの仰角の影響を補正するアルゴリズムに組み込み、気象研究所の二重偏波レーダーのデータから推定した粒径分布や降水強度を地上に設置したディスドロメーターと比較して検証を行った。これらは当初の計画通りである。 その一方、アルゴリズムを高速化することにより、レーダーデータの実時処理と実時校正とともに大量のデータ処理が可能となった。そこでディスドロメーターとの比較結果を統計的に処理したところ、粒径分布のモデルについて、従来の研究とは異なる結果が得られた。このため当初の研究計画を1年延長し、慎重に解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きレーダーシミュレーターの改良を行い、開発した粒径分布の推定手法の精度の向上を目指す。具体的にはこれまでのアルゴリズムでは距離方向に一定と仮定していた、粒径分布パラメータの一つであるμを、シミュレーションの結果に基づきレーダーの観測から距離別に推定する手法を検討し、必要に応じて気象研レーダーの改修を行う。また特に従来の結果と異なる結果が得られた点について、シミュレーションを用いて検証に最適なレーダーの観測パラメータを求め、これを用いて再度検証観測と実験を行う。 一方、雪などの固体降水については、落下する雪片モデルの融解をシミュレートするプログラムを開発し、融解プロセスにともなう粒子内の液相の分布や粒子形状の変化などを調べる数値実験を行う。さらに同様な融解シミュレーションを異なるサイズの雪片モデルについて実施し、部分的に融解した雪片のレーダー散乱特性をDDA法で計算する。またレーダー観測による雪片の物理量推定に向け、散乱特性の計算結果をデータベース化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発中のアルゴリズムを今年度、高速化することにより、大量のレーダーデータの処理が可能となった。そこで処理しだデータと地上観測との比較結果を統計的に解析したところ、粒径分布のモデルについて、従来の研究で指摘されていることが、成り立たたない場合があることを示唆する結果が得られた。このため当初の研究計画を1年延長し、慎重に解析を進める必要があった。次年度使用額は議論のための旅費と、論文投稿用の英文添削などに充てる予定である。
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