研究課題/領域番号 |
15K01280
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
友常 大八郎 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (80283802)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヒト多能性幹細胞 / iPS細胞 / 未分化維持 |
研究実績の概要 |
ヒトの多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)は、疾患のある組織を健康な組織で置き換える再生医療において、その細胞供給源になると期待されている。本計画では、自然に未分化性が破綻する状況を再現した実験系で見いだされた2つのポリコーム遺伝子(MBTファミリー遺伝子)に焦点をあて、特に未分化-分化の境界における機能を解析している。 事前の研究で、未分化状態が自然に破綻する不安定な培養条件(DP)を細胞形態と未分化マーカーの発現を指標に確立し、そのときの細胞の状況をマイクロアレイによって解析した結果、不安定な状態で特異的に発現する遺伝子が多数見いだされた。一般的に、ポリコーム遺伝子群は多能性幹細胞で発現していて、PRC1といった複合体を形成して分化関連遺伝子の発現を抑制することで未分化状態を維持しているとされるが、本研究の対象であるL3MBTL1とFMBT2は、例外的に、不安定化によってその発現が上昇した。そこで、これらの遺伝子をCRISPR-Cas9法を用いてノックアウトした結果、未分化の破綻が著しく促進することを見出した。従って、これらの遺伝子は未分化破綻する状況で発現上昇し、未分化に引き戻すという役割を果たしていると考えられた。この仮説を実証するため、これらの遺伝子をクローン化して、iPS細胞に強制発現させる実験を行っている。また、抗体を用いたChIP-Seq解析を進め、他のポリコームとターゲットが異なるのか、あるいは、不安定化に際してターゲットが変化するかという点を中心に分析している。さらに、不安定化と分化の違いを明らかにするため、多能性幹細胞を確定的な分化状態に誘導する研究も行い、統合的な解析を行った(論文発表済)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体を通して、多能性幹細胞の分化状態の変化について、そのパターンや要因について知見が深まっている。また、前年度から継続してChIP解析を行い、ターゲットについての研究結果も蓄積している。そして、本年度において大いに進展があったのは、MBTファミリー遺伝子のノックアウト細胞(iPS)を作製した研究で、単独のほかダブルノックアウトの作製も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロアレイや次世代シーケンスのデータ解析を行うためのシステムが28年度の後半にようやく導入でき、29年度には本格的に稼働させることができた。今後は、ChIP-Seq解析が容易に進むと期待される。そして、現在既に作製したノックアウト細胞を用い、これらの分化状態を変化させる培養条件に置き、各種マーカーの発現変化を解析し、分化状態が変化がコントロールと比較してどうなっているかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
MBTファミリー遺伝子の機能抑制に関する実験において、より明確な結果が得られるCRISPR-Cas9を用いたノックアウト法を追加して行った。その結果、未分化状態から逸脱した際に発現上昇する遺伝子であるにもかかわらず、未分化維持を強く行っていることを示す結果を得た。これは未分化状態の破綻に際して緊急処置的に未分化状態に引き戻す機能と考えられる。そこで、MBTファミリー遺伝子を強制発現する実験を追加し、そのために研究期間を延長してこれを実証することにした。従って、この次年度使用額は主にこの強制発現系の実験に使用する。
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