研究課題
ヒトの多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)は、疾患のある組織を健康な組織で置き換える再生医療において、その細胞供給源になると期待されている。本計画では、自然に未分化性が破綻する状況を再現した実験系で見いだされた2つのポリコーム遺伝子(MBTファミリー遺伝子)に焦点をあて、特に未分化-分化の境界における機能を解析している。未分化状態が自然に破綻する不安定な培養条件(DP)を細胞形態と未分化マーカーの発現を指標に確立し、そのときの細胞の状況をマイクロアレイによって解析した結果、不安定な状態で特異的に発現する遺伝子が多数見いだされた。一般的に、ポリコーム遺伝子群は多能性幹細胞で発現していて、PRC1といった複合体を形成して分化関連遺伝子の発現を抑制することで未分化状態を維持しているとされるが、本研究の対象であるL3MBTL1とFMBT2は、例外的に、不安定化によってその発現が上昇した。そこで、これらの遺伝子をCRISPR-Cas9法を用いてノックアウトした結果、未分化の破綻が著しく促進することを見出した。従って、これらの遺伝子は未分化破綻する状況で発現上昇し、未分化に引き戻すという役割を果たしていると考えられた。この仮説を実証するため、これらの遺伝子をクローン化して、iPS細胞に強制発現させる実験を行っている。その結果、強制発現によって、不安定化は有意に抑制され、上記の仮説が部分的に裏付けられた。さらに、不安定化と分化の違いを明らかにするため、多能性幹細胞を確定的な分化状態に誘導する研究も行い、統合的な解析を行った(論文発表済)。
すべて 2018
すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)