研究課題
本年度の主な成果は,(1)生体信号時系列に含まれる非定常トレンド成分の除去法の開発とその性能評価,(2)平均2乗偏差の推定に基づくランダムウォーク解析の数理の解明である.(1)については,従来広く用いられてきた局所多項式のあてはめによるトレンド除去法の問題点を克服するために,Savitzky-Golayフィルタを用いた方法を提案した.従来法では非線形フィルタを用いるため統計的推定にバイアスが生じるという欠点がある.それに対し,Savitzky-Golayフィルタを用いた方法では,この点が解決されること,さらに,従来法よりも優れたトレンド除去能力があることを示した.生体信号時系列にはトレンド成分を含んだ非定常性がしばしばみられるため,信頼度の高いトレンド除去法の開発は非常に有用である.(2)については,detrended fluctuation analysis (DFA)およびdetrending moving average (DMA) 解析について,線形確率過程のパワースペクトル(フーリエスペクトル)との関係を解析的に導出した.これまで,DFAおよびDMAについては,数値実験に基づき経験的にそれらの特性が示されていただけであり,解析的な結果はほとんど示されていなかった.本研究では,単一周波数成分に対する応答に基づき,これらの方法の特性を解析的に導く方法を開発した.さらに,DFAの時間-周波数対応のずれを補正する方法を開発した.DFAおよびDMAを使ったフラクタル解析は,生体信号時系列の分析に広く応用されてきた.我々の成果は,その正当性と解釈に数理的基礎を与えるものである.
2: おおむね順調に進展している
非定常性を除去するための方法の検討については,Savitzky-Golayフィルタを用いた方法を新たに提案するなど,想定以上の成果がえられた.ただし,Empirical mode分解の応用について検討を行うことができず,この部分はやや遅れている.スケーリング解析法の検討については,時間領域もしくは周波数領域の周波数応答に基づく新たなアプローチを開発することができており,おおむね順調に計画が進展した.また,多重スケールエントロピー解析に関する検討も計画通り実施できた.非ガウス統計の応用については,持続性心房細動の心拍変動の非ガウス性と脳梗塞発症リスクの関連性を見いだすなど,計画通りの進展があった.
今後は,スケーリング解析を中心として多重スケール解析の方法論の数理的基礎を整備する.さらに,マルチフラクタル解析が適用できない非ガウス過程の解析に有用な非ガウス解析法を開発する.これらの成果を実際の生体信号時系列(心拍変動,呼吸変動,血圧変動,脳波など)への応用することで,その有用性の検証を行う.また,近年注目されている,知識発見のアプローチとして深層学習がある.今後は,多重スケール解析と深層学習を組み合わせた知識発見法についても検討する.
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