先天性胸郭変形症である漏斗胸に対しては、金属バーによる矯正手術(いわゆるナス手術)が標準的に行われている。同法において良好な形態を得るためには、単純にバーを装着するのみでは不十分であり、さらに一部の骨を離断したり、バーを装着する位置を変化したりする工夫が必要である。患者により胸郭の形と硬さは大きく異なるゆえに、おのおのの症例について行うべき工夫もおのずと異なる。たとえばある患者に対してはバーの装着のみで良好な形態が得られるが、別の患者においてはバーの装着のみでは不十分で、さらに胸骨や肋骨の切除が必要とされる。このように個々の患者の胸郭の特性にかんがみ、異なった手術計画をとる必要がある。そこで本研究においては、それぞれの患者について最良の結果を得るためには、どの肋間にバーを装着し、どの部分を離断すれば良いのか、についての具体的な手術計画―いうなればオーダーメイドの手術計画―を立てるシステムを開発することを目的として行われた。 研究はおおむね3期に分けて行われた。 第1期においては、ナス手術の原法に伴う胸郭の形態変化を予測するシステムを構築し、単純にバーの装着を行うと胸郭の形はどのように変わるのかを予測できるようにした。このために、個々の患者の胸郭の形態と柔軟性を正確にモデリングする技法を開発した。 第2期においては、原法に加えて修飾操作を行うと結果はどう変わるのか予測できるようにした。実際の治療で行われる、部分的骨切りなどの修飾操作をモデリングに反映させた上で、それを行うと原法単独に比して胸郭の形はどう改善するのか予測できるようにした。 第3期においては、開発したシステムを実用し、個々の患者につき考最良な術式を選択する。さらに予測した結果と実際の結果の整合性を検証しつつ、精度の向上をはかった。
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