研究課題/領域番号 |
15K01296
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
宮本 裕一 埼玉医科大学, 保健医療学部, 准教授 (00313718)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生体制御・治療 / 光線力学療法 |
研究実績の概要 |
光線力学的療法は,悪性腫瘍に対する治療法であり,酸素分子の存在下において,適切な波長の光照射を受けた光感受性物質との相互作用に基づいている.近年,光線力学的治療(PDT)は,その対象を表在性早期がん以外にも拡大しようとしている.新生血管に働きかけ,その退縮を促す作用は,加齢黄班変性症の治療に応用されているのに加え,最近では細胞膜透過性の制御も可能であることも報告されている.本研究では,これらPDTの組織・細胞の機能制御という側面に着目,特に(1)細胞膜上に薬剤排出トランスポーター P-glycoprotein(P-gp)を過剰発現するタイプの抗がん剤耐性獲得細胞(Paclitaxel(TXL) 耐性獲得HeLa細胞)の耐性低減,(2)酵素による細胞内解毒化機構を有するタイプの抗がん剤耐性獲得細胞(Cisplatin(CDDP)耐性獲得HeLa細胞)に対するPDTの有効性を検討した.光感受性物質にはPhotofrin(PF) を採用,照射量は著しい傷害効果を有しない0.5-3.0 J/cm2 の範囲とした. PFと細胞との接触は,①血清含有培地(プロトコール1)あるいは,②PBS(プロトコール2)にPFを懸濁,インキュベーションすることで行い,これら二種類のモデルを適用したPaclitaxel(TXL) 耐性獲得HeLa細胞について,PDT による耐性低減効果を比較検討した.その結果,プロトコール1のPF接触を行ったPDTは,顕著なTXL耐性の低減効果を示さなかったが,プロトコール2によるPF接触を行ったPDTでは,細胞生存率および薬剤排出能の低下を認め,TXL耐性及びCDDP耐性の低減が示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Paclitaxel(TXL)及びCisplatin(CDDP)耐性獲得HeLa細胞の確立とPDT励起レーザー光照射システムの構築が順調であったため,本年度は細胞増殖活性に与える影響評価,蛍光物質を使用したP-gpの薬剤排出能の評価等,予定していた検証実験に専念することができた.そのため,当初は最終年度に予定していた成果公表を前倒しで実施した.TXL耐性獲得HeLa細胞については,国内学会誌への掲載,CDDP耐性獲得HeLa細胞については,国際会議での発表を果たすことができた.現段階において,本研究は概ね順調に進展しているものと考える.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果により,TXL耐性獲得HeLa細胞の耐性低減には,P-gpの薬剤排出能の低下が関わっていることが示された.一昨年度の成果において,PDTによるP-gpの光酸化は,その耐性低減に直接関与しないことが明らかになっていることから,現時点では,おそらく細胞膜の流動性に主因があるものと思われる.最終年度においては,PDTの適用によって認めたP-gpの薬剤排出能の低下には,細胞膜の流動性の変化が関与しているのではないかと考え,これを実証する実験系を構築し,検討していきたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
前述したように研究が順調に進展したため,論文発表や国際会議での公表を早めた.本来,実験に要するはずであった消耗品の費用を成果発表に係る諸費用に振り分けたが,前者が後者を下回ったため,次年度に持ち越される結果となった.
|
次年度使用額の使用計画 |
現段階でまとまっているデータの再検証実験及び未公表成果分の発表に使用する予定である.
|