がん化学療法で認められる薬剤耐性化は、その副作用と並ぶ大きな課題であり、一般には末期がん、再発がんに見られる抗がん剤の耐性化として知られている。がん細胞がある一つの抗癌剤に対して耐性を獲得すると、同時に化学構造の異なる抗がん剤に対しても耐性を示すことが多く、この問題をさらに深刻なものにしている。がん細胞の多剤耐性化機構は、段階的に明らかにされてきているが、その細胞膜に存在する多剤排出性膜輸送たんぱく質(多剤排出トランスポータ)が大きな役割を担っている。抗がん剤の多くは、細胞内に入るか細胞膜に極めて近い領域で必要十分な濃度が確保されることで、その効果を発揮するが、当該トランスポータは、抗がん剤分子を能動的に排出し、細胞内の抗がん剤濃度を下げてしまう。さらに厄介な点は糖やアミノ酸等、がん細胞自身に必要な物質を誤って排出することはなく、非常に優れた基質認識機構を備えていることである。 研究代表者は、光線力学的処置(PDT) による薬剤耐性獲得細胞の耐性低減が可能かどうかを複数年にわたって検討してきており、P-gp を過剰発現するタイプの耐性機構を有するパクリタキセル耐性獲得 HeLa 細胞 (以下、HeLa/TXL 細胞) において、その耐性を低減できることを実証するに至った。しかしながら、本成果は細胞の増殖活性を指標としたものであり、PDT が P-gp にどのように作用し、実際にその耐性の低減につながったのかは十分に検討されていなかった。 本研究では、 P-gp に特異的に結合する蛍光標識抗体 CD243 PE を用いたフローサイトメトリーによる定量評価を実施、PDT が P-gp の抗体結合能に与える影響を検討した。その結果、PDTは、HeLa/TXL 細胞のP-gpの抗体結合能を低下させる作用を有し、これがPDTによる薬剤耐性の低減の要因となっていることが示唆された。
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