皮膚は身体の最外層を覆っている臓器である.体表面から表皮,真皮,皮下組織の三層構造となっており,外力などの刺激から身体を保護する機械的防御や発汗による体温調節などの生理的に重要な機能を担っている.特に真皮は,細胞外マトリックスとそれを産生する細胞によって構成されており,皮膚全体の硬さや弾性などの力学的機能の大部分を担っている.真皮を構成する細胞外マトリックスの代表として,コラーゲンとエラスチンが挙げられる.コラーゲンは皮膚の剛性を主に支配し,皮膚の弾性や伸展性はエラスチンと強く関連すると考えられている.これらの成分は,紫外線曝露などによって生じる光老化に起因して変化することが知られている.その結果,皮膚の弾性や伸展性が変化していくと同時に,皺やたるみが出現する.本研究では,損傷した皮膚損傷の修復を促進させる有効成分の探索を行うための基礎データを得ることを最終目標として,ヘアレスマウスの背部皮膚に高強度紫外線を一定期間にわたって照射した後,紫外線の照射を停止してからの治癒期間において,エラスチン成分を塗布した皮膚組織に対し力学的試験を実施した.力学試験として,吸引負荷試験を行っており,吸引圧力と皮膚変形量の関係から組織の弾性係数を算出した.これらの結果より,損傷治癒過程にある皮膚の力学的特性に及ぼすエラスチン成分の影響について検討した.今回新たに実施したデータ解析手法によって,皮膚の材料特性である弾性係数を求めることができ,紫外線照射およびエラスチン塗布が皮膚の伸展性に及ぼす影響を定量的に評価することが可能であった.紫外線照射によって損傷したヘアレスマウスの背部皮膚の治癒過程において,エラスチン含有ワセリンを塗布した皮膚の弾性係数は,紫外線照射のみを施した群と比較して低値を示し,エラスチン成分が紫外線照射による皮膚の硬化を抑制する可能性があることが考えられた.
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