研究課題/領域番号 |
15K01304
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
坂元 尚哉 首都大学東京, システムデザイン研究科, 准教授 (20361115)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生物・生体工学 / 細胞・組織 / 細胞核 / 架橋タンパク質 / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
細胞核への力学情報伝達が細胞の力学応答および細胞核自身の力学特性に及ぼす影響を明らかにする目的において,まず細胞核の力学特性評価方法の確立を行った.本研究では従来の研究に比べより生理的な状態での細胞核力学特性を評価するため,細胞から細胞核の単離を行わず,原子間力顕微鏡を用いた押し込み試験により生細胞内の細胞核力学特性評価を試みた.その結果,トリコスタチンA処理による細胞核弾性率変化を確認できたことから,今後の研究において本手法を細胞核力学特性評価に用いることとした. 細胞内力学情報伝達経路の一つと考えられるアクチンフィラメントと細胞核との結合を架橋するタンパク質の一つネスプリン-1の発現抑制を線維芽細胞に施した.ネスプリン-1を発現抑制した細胞および無処理の野生型細胞に対して繰り返し伸展刺激を負荷し,細胞核の弾性率を測定した.刺激を負荷する前の細胞核弾性率にはネスプリン-1発現抑制の影響は見られなかった.またネスプリン―1の発現抑制にかかわらず刺激負荷1時間で細胞核の弾性率低下が見られた.その後,刺激を24時間まで負荷し続けた結果,野生型細胞では細胞核弾性率の回復が見られたが,ネスプリン-1を発現抑制した細胞では弾性率の回復が生じなかった.この結果から,力学刺激によって低下した細胞核弾性率の回復に対してネスプリン-1が重要な役割を持つことが明らかになった. 繰り返し伸展刺激負荷によって引き起こされる細胞核弾性率の減少およびその後の回復メカニズムを検討するため,細胞核構造である核ラミナやクロマチンのアセチル化状態を免疫蛍光染色法により可視化し,顕微鏡観察を行ったが,これまでの所これらの構造に顕著な変化は認められていない.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネスプリン―1の発現抑制方法や原子間力顕微鏡を用いた細胞核の力学特性評価方法の確立も予定通りに行え,また本研究の目的にそった基礎的なデータを収集も既に行えており,おおむね予定通りに進展していると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られた結果の意義とそのメカニズムを明らかにするため,以下の研究を展開する. 1)細胞核の力学特性変化と細胞応答との関係:繰り返し伸展刺激負荷により変化した細胞核の力学特性が細胞応答に及ぼす影響を調べる.細胞応答として形態変化に注目し,細胞に繰り返し伸展刺激を負荷した際の細胞形態変化と細胞核力学特性変化との相関を調べる.この実験においてネスプリン-1発現抑制細胞を用いることで,細胞核とアクチンフィラメントとの物理的結合が果たす役割を明らかにする.またクロマチン凝集状態を変化させる試薬により細胞核の力学特性を変化させた細胞に伸展刺激を負荷し,その形態を調べることで,細胞核力学特性が細胞形態応答に果たす役割を明確にする. 2)細胞核リモデリングメカニズムの検討:細胞核力学特性の変化メカニズムを明らかにするため,核内構造に影響を持つタンパク質の可視化や発現量評価を行う.特に核ラミナやクロマチンの凝集状態,またこれらの構造を細胞核内で架橋するエメリンなどのタンパク質に注目して研究を進める.この観察において変化が見られたタンパク質に対して,関連シグナル経路の阻害やsiRNAを用いた発現抑制を行い,繰り返し伸展刺激を加えた際の細胞形態応答を調べることで,その役割をさらに明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究実施に必要な物品購入を行うことが出来ない使用残額であったため,次年度に繰り越すこととした.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度研究計画および研究費使用に影響することはないと考えられる.
|