昨年度確認した繰り返し伸展刺激に対する細胞伸長に対するネスプリン-1発現抑制の影響に関して,遺伝子発現変化を介したシグナル経路の関与を調べるため,転写活性を阻害するアクチノマイシンDを投与した線維芽細胞を用いた実験を行った.その結果,アクチノマイシンD投与はネスプリン-1発現抑制によって生じる細胞伸長低下に影響を与えなかった.この現象は,細胞伸長に対して細胞核が力学的に役割を担っていることを更に明確にする結果である. 細胞核が細胞内力学状態に与える影響を調べるため,ネスプリン発現抑制による細胞の接着基質牽引力変化を調べた.ポリアクリルアミドゲル上に培養した線維芽細胞の牽引力を調べた結果,ネスプリン発現抑制は細胞最大牽引力を増加させた.牽引力分布に注目したところ,細胞核周辺部での牽引力の顕著な変化が確認された.さらに細胞核弾性率を変化させるトリコスタチンAを投与した細胞においてもネスプリン-1発現抑制と同様の傾向が得られた.この結果は細胞核の力学特性が,細胞内力学バランスに深く関与していることを示唆する. 本年度はさらに細胞核においてネスプリンとの関与が指摘されている細胞核内タンパク質エメリンを発現抑制した細胞の細胞核弾性率変化に対する繰り返し伸展刺激の影響を調べた.エメリン発現抑制した細胞の細胞核弾性率は,繰り返し伸展を24時間負荷により無処理の細胞に比べ統計的有意差は得られなかったものの低下する傾向を示した.ネスプリン-1を介した力学刺激によりエメリン活性の変化が過去に報告されており,繰り返し伸展刺激負荷により低下した細胞核弾性率の回復現象において,ネスプリン-1が重要な役割を担っていることがさらに確認された.
|