本課題では、インペラに作用する流体力と永久磁石による磁気力、動圧軸受による軸受発生力の釣り合いを利用した血液ポンプを開発することで、動圧軸受を単独で使用した場合では達成困難な広い軸受隙間を安定して実現する血液ポンプを目指している。平成29年度はこれまで開発してきた動圧軸受を有する血液ポンプを試作し、インペラの浮上位置計測試験と血液適合性試験を実施した。 1. インペラの浮上位置計測試験 動圧ポンプのインペラの浮上位置を評価するため、レーザー距離計を利用した評価試験を実施した。スラスト隙間は、最低回転数である500rpmのインペラの位置をゼロ点とし、回転数を増加させたときのインペラのスラスト方向の変位から計測した。スラスト変位の計測試験を実施した結果、インペラ内の永久磁石とコイルの間の磁気力とインペラに作用するスラスト流体力を最適化したモデルで動圧軸受単独では達成困難な100μmを超える軸受隙間が実現できた。インペラのラジアル隙間は、2つのレーザー変位計を使用して、インペラのラジアル軌跡より計測した。最低回転数である500rpmのインペラ軌跡からケーシング中心を求め、ポンプの回転数を増加させたときのインペラの偏心量と振動片振幅を評価した。本試験の結果、ラジアル動圧軸受の発生力がインペラの遠心力を超える多円弧軸受形状のモデルでインペラは安定駆動することが確認された。 2. 血液適合性試験 試作した動圧ポンプの血液適合性を評価するため、動物血を用いた溶血試験とin-vitro抗血栓試験、ブタを用いた動物実験を実施した。血液適合性の評価試験を実施した結果、開発ポンプの溶血特性は市販ポンプよりも優れており、in-vitro抗血栓性試験でも血栓形成は観察されなかった。ブタを用いた動物実験では、抗凝固療法無しの条件で溶血や血栓形成は観察されず、優れた血液適合性を確認することができた。
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