研究課題/領域番号 |
15K01310
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 祐貴 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40402789)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質吸着挙動 / 分子間相互作用 / 高次構造 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
タンパク質吸着はマテリアル表面で最初に誘起され、その後の様々な生体応答を決定づける重要な生体応答である。本研究では、マテリアル表面に作用する表面力およびタンパク質が受ける分子間力の観点から、タンパク質吸着の詳細な作用機構を包括的に明らかにすることを目的とする。当該年度では、濡れ性や表面電荷の異なるポリマーブラシ表面と高次構造を制御したタンパク質との間に働く分子間相互作用を原子間力顕微鏡(AFM)によるフォースカーブ測定により定量することで、マテリアル表面への吸着に伴うタンパク質の高次構造変化の駆動力を明らかにすることを行った。 AFMカンチレバー表面に様々な種類の官能基を提示させ、さらに尿素処理を併用することで、固定化したフィブロネクチンのベータシート含率を1.0から60%の範囲で制御した。親水性またはアニオン性のポリマーブラシ表面は、高次構造に関わらずフィブロネクチンとの相互作用が小さかった。またこれらの表面ではフィブロネクチンはほとんど吸着しなかった。これらのことから、タンパク質吸着を抑制するためには、その高次構造によらず、タンパク質との相互作用を抑制することが重要であることがわかった。一方、カチオン性または疎水性のポリマーブラシ表面は、高次構造の異なるフィブロネクチンと高い相互作用力を有した。さらに、フィブロネクチンのベータシート含率の低下に伴い、これらの相互作用力は増加した。これらの表面にはフィブロネクチンが単層吸着した。フィブロネクチンは生理的条件下で負の正味電荷を有するタンパク質である。これらの結果から、タンパク質と反対電荷の官能基または疎水性官能基が、マテリアル表面でのタンパク質の変性を誘起することが定量的に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な特性を有するポリマーブラシ構造の構築、高次構造を制御したタンパク質の固定化、高次構造の異なるタンパク質との相互作用力の解析、タンパク質の吸着量の解析など、予定されていた実験を実施し、一定の結果を得たため、このように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、様々な化学構造を有する構造明確なポリマーブラシ表面および原子間力顕微鏡を用いたフォースカーブ測定を組み合わせたタンパク質吸着の詳細な解析に従事する。表面作製の例として、ランダム型イオン性ポリマーブラシ構造により静電的相互作用を、非電解質親水性ポリマーブラシ構造により水素結合性相互作用を、ランダム型親水‐疎水性ポリマーブラシ構造により疎水性相互作用を制御することを目指す。具体的な表面特性解析方法として、同種もしくは異種のポリマーブラシ表面についてフォースカーブ測定を行い、カンチレバーの接近過程から間接的遠距離相互作用を、離脱過程から直接的相互作用力を定量的に評価する。また、タンパク質を固定化したカンチレバーを用いた接近/離脱のフォースカーブにも、表面近傍でのタンパク質の振る舞いを理解する多くの情報が含まれている。これを生理条件下で負の正味電荷を有するアルブミン、正の正味電荷を有するリゾチームや、血液凝固作用に関連し、マテリアル表面で多層吸着層を形成しやすいフィブリノーゲンおよび細胞接着に寄与するファイブロネクチンなどに対して行う。特に、イオン強度やpHなどの緩衝液の特性をパラメータとしてフォースカーブを取得することで、静電的相互作用がタンパク質吸着挙動に与える寄与を定量的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリマーブラシ表面を構築する重合システムを工夫することにより、これまでより少量の試薬でその合成が可能となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
表面構築が安価で可能となった分を、各表面分析装置に専用のセンサー基板やプローブ等の購入で補填することで計画的に使用していく予定である。
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