研究課題/領域番号 |
15K01317
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
小林 純 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (20385404)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体材料 / 再生医療 / ハイドロゲル / 温度応答性高分子 / マイクロ流体 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヘパリン修飾温度応答性表面に増殖因子や接着タンパク質など種々の基底膜成分を温度応答性培養表面上に導入することにより、基底膜を模倣した温度応答性培養表面を調製し、高機能な肝細胞シート作製をおこなう。当該年度は、平成27年度に作製したヘパリン修飾温度応答性培養表面の特性解析を行った。具体的には、ヘパリン-ヘパリン結合性上皮細胞増殖因子様増殖因子(HB-EGF)間のアフィニティーの強さを定量的に解析した。まず、温度が20℃あるいは37℃のとき、濃度の異なるHB-EGFをヘパリン修飾温度応答性培養表面上にアフィニティー結合し、結合量をELISA法によって検出した。濃度に対するHB-EGF結合量を非線形カーブフィッティングして解離定数を算出した。上述の方法で決定した解離定数は3.6 nM(20℃)、2.1 nM(37℃)であり、温度変化が解離定数に与える影響は小さいことがわかった。ヘパリン修飾温度応答性表面が20℃のとき温度応答性高分子鎖は膨潤し、37℃のときは収縮していると考えられるが、今回の結果は温度応答性高分子鎖の膨潤/収縮はHB-EGF-固定化ヘパリン鎖間のアフィニティー結合にほどんど影響を与えないことを示唆する。これは、温度応答性高分子鎖の膨潤/収縮に関わらず、HB-EGFは立体障害をほとんど受けずに温度応答性高分子鎖内部に拡散するためと考えられる。また、柔軟な基材表面上での肝細胞培養については、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた肝細胞培養と肝特異的機能測定(アルブミン産生能)および免疫学的組織染色を行った。しかし、PDMSに対する肝細胞接着性が低く、肝特異的マーカーであるE-カドヘリンが検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
基底膜を模倣した温度応答性培養表面の解析については概ね予定通り進んでいる。基底膜を模倣した柔軟な温度応答性培養表面の作製については、肝細胞の接着性を向上させる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1.基底膜を模倣した柔軟な温度応答性培養表面の作製 柔軟な温度応答性培養表面に対しての細胞接着性を向上するために、コラーゲン等細胞外マトリックスのコーティング、あるいはヘパリン鎖を共有結合的に導入するなど、細胞培養条件の最適化を行う。その後、コンフルエント濃度で肝細胞を培養表面上に播種し、単層状に培養した後、温度を20℃に低下させることにより、高機能な肝細胞シート組織を作製、回収する。回収した肝細胞シートは、免疫学的組織染色によって解析を行う。 2.温度応答性培養表面の特性解析 ヘパリン修飾温度応答性表面にHB-EGFをアフィニティー固定したのち、細胞膜上の受容体との相互作用を解析する。具体的には、蛍光ラベル化HB-EGFをヘパリン修飾温度応答性表面にアフィニティー固定したのち、37℃で細胞を培養し、20℃に温度低下した際の細胞脱着挙動と蛍光ラベル化HB-EGFをリアルタイムに観察し、HB-EGFとヘパリン修飾温度応答性表面のアフィニティー相互作用を評価する。 3.マイクロ流体デバイスを用いた肝細胞シート培養システム マスクレス露光装置を利用したフォトリソグラフィーによりマイクロ流体デバイスを作製し、上記で作製した肝細胞シート組織の長期培養およびその評価を行う。具体的には、流体デバイス内部に肝細胞シート組織を留置し、培地を灌流することで、持続的に栄養成分および酸素を供給、老廃物を除去する。さらに、流体デバイスから排出される培地中のアルブミン量をELISAで定量し、肝特異的な機能を持続的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画に比べて試薬の購入量が少量で、物品費が当初よりも少額になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
HB-EGFなどの遺伝子組み換えタンパク質の購入費用に充当する予定である。
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