研究課題
平成28年度は、前年度に薬物保持・徐放能に差が生じることが見出された抗HIVペプチド徐放化薬物担体である2種の人工エラスチンポリペプチドの物性を調べた。特に、ハイドロゲルの自然崩壊速度および酵素消化耐性に焦点を当て、ハイドロゲルを形成しない人工エラスチンポリペプチドを対照に置き、これらにどのような差異が認められるのかを精査した。その結果、(1)ハイドロゲルを形成すること自体により酵素耐性を獲得できること、(2)疎水性の人工エラスチンが形成するハイドロゲルの自然崩壊速度がより遅くなること、かつ、(3)より強力な酵素耐性が生じること、などの新規知見が得られた。近年、各種のHIV構成タンパク質のX線結晶構造解析から、タンパク質-タンパク質相互作用に関わるインターフェース領域の部分配列を抽出して合理的に分子設計したペプチドや、ランダムペプチドライブラリーからのスクリーニングにより、HIV構成タンパク質と相互作用するペプチドの報告が相次いでなされた。これらのうち幾つかには抗HIV標準療法:ARTで生じた薬剤耐性ウイルス株にも有効であるとして、細胞膜透過性モジュールで修飾したペプチドの抗HIV活性に注目が集まっている。これらの膨大な情報を吟味・選別して本研究課題に適するペプチドを精査した。有効であると考えられたペプチドに関しては、実験計画書に明記のとおり新規抗HIVペプチドモジュール候補分子として位置付け、平成28年度は十数種類の新規抗HIVペプチドモジュールをクローニング・鎖状化し、これらを抗HIVペプチドモジュールの人工遺伝子ライブラリーに加えて、ライブラリーの充実化を図った。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、(1)ポリペプチドの設計・調製と、(2) 試験管内 (in vitro)および(3)動物血中 (in vivo)での活性評価の3つを、首尾よく互いにフィードバックできる実験系と環境をいかに構築できるかが鍵を握る。(1)に関しては、前年度に引き続き新規抗HIVペプチド遺伝子モジュールの種類を増やし、ライブラリーを充実化させることができた。本年度は、前年度に明らかとなったポリペプチドの物性評価に焦点を当て、薬物デポ担体がもつ必要条件となる分子情報を手にしたことは、当該研究進展に大きく寄与すると思われる。(2)および(3)は既に前年度までに当講座内および研究分担者所属の施設内でルーチンワーク化できており、最終年度に向け、ペプチドを高分子化して多機能化したバイオ高分子について、抗HIV活性を評価する見通しがついている。
引き続き、申請者がこれまでに取り扱ってきた抗HIVペプチドを中心として、異なる作用メカニズムをもつ種々のペプチドを人工遺伝子としてクローニングし、ライブラリーの充実化を目指す。最終年度にあたる次年度は、このライブラリーの中からまずは同種のペプチドをタンデムに連結したポリペプチドを設計・調製し、抗HIV活性に対する多価効果の有無とその程度をin vitro/in vivoの両側面から解析予定である。
消耗品の一部が期間限定の割り引き価格で購入できたため残額が生じた。
年度初め早々に、細胞培養器具の購入に全額1,331円を充てる予定である。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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