研究課題/領域番号 |
15K01339
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
佐藤 満 昭和大学, 保健医療学部, 教授 (10300047)
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研究分担者 |
山下 和彦 東京医療保健大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00370198)
福井 智康 昭和大学, 医学部, 講師 (50384475)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 検査・診断システム / 足底 / 感覚検査 / 糖尿病 / 転倒 |
研究実績の概要 |
足底面の触覚検査は高齢者の転倒リスク判定や足部に初発する糖尿病性神経障害の症状検出で重要な役割を果たすが、従来の足部感覚検査は煩雑な手順を要するため、多忙な外来診療や地域健診の場ではほとんど実施されてこなかった。本課題の研究代表者らは、専門知識に乏しい者でも簡易に扱えて信頼性の高い検査を可能とする足底感覚検査装置を開発している。これまでに、本機器と既存機器の検査値は高い相関を有することを確認している。本研究課題は、この装置の糖尿病性神経障害に対する検出感度を検証し、その有効性を明確にするとともに、高齢者転倒リスク判定への寄与や、転倒予防事業の効果判定に利用可能かどうかについて検証することを目的としている。 本装置は、検査台の所定の位置に足底を載せると、刺激プローブが足底面に振幅の異なる微小なずれ刺激を自動で提示し、被検者は刺激を感知した際にボタンで応答するという、従来機器より簡易な測定原理を採用している。平成27年度は、本装置の2次試作機を用いて、その検査値妥当性を検証するためのデータ採取を実施した。まず、糖尿病患者を対象とした足底面5ヶ所の感覚閾値を本装置と既存機器を用いて測定した。昨年度より先行実施していた被検者を含めて約80名のデータを採取し、その解析を行った。また、年代別の標準値を確認するために、20-70歳代の神経学的疾患の既往をもたない健常者を対象に、本装置による足底感覚閾値データを採取した。さらに、本装置の検査値妥当性を検証するために、本装置で設定されている平滑面と凹凸面の2種類のプローブ形状で感覚閾値に差が生じるかどうかと、検査姿勢(座位・立位)で測定される感覚閾値に差が生じるかどうかを検証するデータ採取を実施した。 本研究課題のもうひとつのテーマである高齢者の転倒リスク判定に関しては、要介護高齢者の研究参加に適した介護保険の通所介護施設の選定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
足底感覚検査装置が足部に初発する糖尿病性神経障害の初期症状を従来機器よりも高感度で検出できるかどうかを検証するために、糖尿病で入院加療中の患者から、本装置と既存機器で、足底面5ヶ所の感覚閾値を測定した。昨年度より先行実施していた被検者を含めて80名、160肢前後のデータを採取し、その解析を行った。本装置による検査値は、既存機器(SWモノフィラメント)と比較すると、糖尿病性神経障害の重症度分類で最軽度もしくは2番目の軽度に相当する患者の足底面感覚閾値の差をより適切に検出できることが明らかとなった。神経障害重症度分類の他に、神経伝導速度検査や振動覚検査、腱反射等の神経学的検査値や、糖代謝検査値(HbA1c等)、他の糖尿病合併症の有無等と、本装置による検査値との関連についての検証も行った。また健常者の標準データを採取するため、20-70歳代の健常者50名から(協力施設測定分を含む)本装置による足底感覚閾値データを採取した。さらに、本装置(2次試作機)の検査条件の違いによる検査値の妥当性を確認する試験を実施した。具体的には、健常者被検者12名24肢より、本装置の感覚刺激提示部であるプローブの表面形状の違いによる検査値の差を検証し、健常者から軽度感覚障害者までの閾値に相当する移動刺激10-200μmの範囲において、2種類のプローブによる感覚閾値に有意な差はないことを確認した。加えて、検査姿勢(座位・立位)によって検査値に差が生じるかどうかの検証も同じ被検者で行い、本装置による検査を立位で行うと、座位よりも低い感覚閾値を検出することが明らかとなったほか、一度検知した感覚刺激よりも大きな刺激の見落とす事例が座位よりも多くなることが確認された。これは立位では姿勢保持がより難しくなるためと考えられ、次年度以降の要介護高齢者を対象とした転倒リスク判定のデータ採取の指針となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、本研究課題のもうひとつのテーマである新開発の足底感覚検査装置の高齢者の転倒リスク判定への応用可能性の検証に関するデータ採取を実施する。平成27年度の成果として、本装置のプローブ形状と検査姿勢に関する検査値妥当性の結果より、高齢者に適した検査実施方法が確定している。さらに平成27年度中に対象となる要介護・要支援高齢者に参加を依頼できる介護保険の通所介護施設の選定を行っており、平成28年度はこれらの施設を利用する方を対象に被検者を募集して、本装置による足底感覚閾値の測定を実施する。これらの対象者には、下肢筋力の徒手測定と筋量の形態的測定(大腿四頭筋・下腿三頭筋・足趾屈筋等:形態的測定には超音波画像計測装置を使用)、下肢関節可動域、バランステスト、歩行能力テストとともに、質問紙による転倒履歴、身体活動量、服薬、栄養、居住環境の調査を実施する。また、それらの被検者の中から同意を得た方には、治療的運動やフットケア等の転倒予防を目的とした取り組みの実施前後での足底感覚閾値を計測し、これらの治療的介入が感覚機能に与える影響を確認するデータ採取を実施する。さらに足底感覚閾値に改善が認められる場合には、介入後の一定期間ごとに継続して足底感覚を計測し、改善効果の持続性を検証するためのデータ採取を実施する。これらのデータ採取に先立って、研究倫理審査の申請を行い、承認を得た後にデータ採取を実施する。また平成27年度に引き続き、様々な年代の神経学的疾患の既往を持たない対象者に対して本装置を用いた足底感覚閾値計測を行い、本装置による検査値の健常者年代別の標準値とその分散等を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で使用した足底感覚検査装置は本課題申請の時点では製造企業から購入する計画であったが、この装置は開発途上にあり、その試作機を貸与される形で被検者からのデータ収集に使用した。そのため平成27年度の設備備品費に未使用分が発生した。さらに被検者からのデータ採取時に使用する測定器類(皮膚硬度計や放射温度計等)は、現有品の流用することで賄えたため、新規購入しておらず、この分の消耗品費にも未使用分が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には、本研究課題で使用する足底感覚検査装置の医療機器承認申請が行われる予定であり、それに先立って販売製品の実機が完成する。昨年度に未使用であった当該装置の購入費は販売製品機の完成後に支出する計画である。平成28年度以降は複数の施設で被検者からのデータ採取を実施する計画であり、平成27年度は現有品の流用で賄えた付帯データの測定器具類(皮膚硬度計、放射温度計等)を複数購入する計画である。この購入費(主に消耗品費)に昨年度の未使用分を充当する。
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