本課題最終年度には、検査値再現性の高い足底感覚計を用いて高齢者転倒リスク因子としての足底感覚機能低下の寄与を明らかにする課題が残されていた。 介護保険の通所介護施設を利用する高齢者110名を対象として、運動機能(筋力、関節可動域、歩行・バランス能力など)、認知機能(ミニメンタルステート検査、Trail making テスト)など先行研究で転倒事象との関連が指摘されている諸因子に加えて、足底感覚計を用いた足底感覚機能を測定した。後方視的研究として、測定時点から過去1年間の転倒の有無により群分けしたところ、転倒群55名、非転倒群55名に分けられた。転倒の有無を目的変数、上記の測定項目を説明変数としてステップワイズ法による重回帰分析で抽出された因子を基にロジスティック回帰分析を行ったところ、足底感覚の低下が過去の転倒事象を説明する最も優れた指標であることが明らかとなった(投稿中)。また、上記の測定後1年後までに発生した転倒事象の調査を行い(前方視的研究)、現在までにおよそ8割の対象者でデータを採取している。現時点で上記と同様の分析を行ったところ後方視的研究と同じく足底感覚低下が転倒事象をもっとも強く説明する因子である結果が得られている。転倒リスク判定での足底感覚機能の重要性が示唆された。 体性感覚検査は、検査刺激を手作業で加える方法が一般的で、測定の労力と再現性に問題を抱えており、転倒リスク因子としての寄与に関する知見の蓄積は乏しかった。本研究課題の結果は、これまで転倒リスク因子として知られていた筋力や運動機能検査より、足底感覚検査が転倒リスク判定への寄与が大きいことを明らかにした。足底面の機械的受容器は下肢の運動ニューロンと強いシナプス結合を有することが近年明らかとなっている。今後は足底感覚低下と転倒の強い関連を身体運動分析的手法で裏付ける研究に発展させ、転倒予測の根拠をより確かにする予定である。
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