脊髄損傷受傷後に嗅粘膜上皮組織を移植すると運動機能が回復する臨床研究が国内外で実施されている。嗅粘膜上皮組織は患者本人から採取するため拒絶反応や倫理的な問題はない。髄を半切しても障害側の呼吸運動は約3か月で回復することが分かった。脊髄半切部に移植された嗅粘膜上皮組織が呼吸運動に関与する神経回路に新たにどのような役割を担うかについて実験を行った。半切後嗅粘膜上皮細胞を移植して3か月経過した時点でも半切側を下行する呼吸中枢からの下行路は修復されないことを示し、脳幹からの呼吸性の下行路は切断面を超えないことが分かった。半切部位の組織学的な解析を行うと切断部位には結合組織が認められるがニューロンは認められなかった。半切後3か月経過すると半切側の横隔神経発射は回復するので呼吸中枢の健常側を下行する主軸索からの軸索側枝が正中を超えて半切測の横隔神経運動ニューロンにシナプス結合することが示唆された。正常な動物では吸息相において横隔神経運動ニューロンは最初に小型の運動ニューロンから発火し、徐々に大型の運動ニューロンが吸息活動に参加することが報告されている。半切した動物の横隔膜の運動単位の活動は小型の運動ニューロンから発火し、徐々に大型の運動ニューロンが吸息活動に参加する序列が変化することが示唆された。研究成果の一部は第96回日本生理学会大会(FAOPS2019との合同開催)にて発表した。また、呼吸運動回復の神経回路の解析について成果の一部をJournal of Physiological Sciences誌に掲載された。
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