研究実績の概要 |
昨年度までの研究により、他者の嚥下音を聞くことで主観的に嚥下がしやすくなると感じ、実際に嚥下反応時間も早くなることが明らかとなった。一方で嚥下動画を見たときには同様の効果は見られなかった。 本年度はこの嚥下促進効果の神経基盤を明らかにするため、嚥下機能に問題のない成人24名(男性11名, 女性13名, 平均21.6歳)を対象に、先行研究で用いた4種の刺激(嚥下音、ノイズ音、嚥下動画、静止画)を提示したとき、または参加者自身が水を嚥下したときの脳活動を近赤外分光法を用いて測定した。測定部位は前頭前野から一次運動野にかけての領域であった。 血流動態分離法(Yamada et al., 2012)を用いて局所的な神経活動に由来する信号と全身性の血流変化に由来する信号を分離し、各条件における賦活部位を同定した。その結果、ノイズ音提示時よりも嚥下音提示時に左下前頭回および右上側頭回が賦活していた一方で、静止画提示時よりも嚥下動画提示時に賦活する部位は観察されなかった。 嚥下促進効果が嚥下音で見られ嚥下動画では見られなかった行動実験の結果と合わせると、 下前頭回と上側頭回が嚥下音による嚥下促進効果に関与している可能性が高い。下前頭回はヒトのミラーニューロンシステムの一部であることから、嚥下音を聞くことで嚥下に関するミラーニューロンシステムが賦活し、そのことが自身の嚥下の円滑な開始に寄与した可能性が考えられる。上側頭回は高次の聴覚処理に関わる部位であり、その賦活は嚥下音が意味のある特別な音として処理されていたことを示唆している。
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