研究課題/領域番号 |
15K01390
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鈴木 恵子 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (40286381)
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研究分担者 |
岡本 牧人 北里大学, 医学部, 名誉教授 (40129234)
佐野 肇 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (80205997)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 要介護高齢者 / 難聴 / 認知症 / 介護老人保健施設 / 聴力検査 / 補聴器 / 言語聴覚士 / 通所リハビリテーション |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度実施した難聴をもつ要介護高齢者の補聴器装用効果に関する研究成果を論文にまとめることを、第一の目標とした。すでに原著「要介護高齢者の聴覚評価―聴力検査―」「要介護高齢者の聴覚評価―介護職員の難聴認識と介入前の対応―」、「介護老人保健施設入所者の補聴器試聴 第1報―補聴器装用の効果―.」がAudiology Japan に掲載済み、「介護老人保健施設入所者の補聴器試聴 第2報―補聴器適合と試聴の結果―」、「介護老人保健施設入所者の補聴器試聴 第3報―装用時間の推移―」が掲載予定である。 さらに本年度は、これまでの研究成果をもとに要介護高齢者の難聴へのより効果的な介入方法を明らかにすることを目指して、同施設の通所リハビリテーション利用者を対象に聴覚評価と補聴器試聴を実施した。 対象は通所リハビリテーションを週1~4日利用している要介護・要支援高齢者(以下通所群)74例(男42、女32、78歳±8.2歳)であり、入所群87例と比べ年齢は低く、認知機能(MMSE得点)は高く、ともに差は有意であった。聴覚評価は入所者と同様耳内診察、聴力検査、質問紙調査によって行った。耳内診察では、除去の難しい鼓膜栓塞を7例9.5%に認め、入所群と明らかな違いはなかった。左右耳別6周波数の聴力検査は反応法の工夫により全例で可能であり、58例78%に良聴耳25dB以上の難聴を認めた。良聴耳聴力の平均値は35.9±13.3dBであり、入所群44.1±14.1dBと比べ有意に良好であった。補聴器試聴は聴力、聴力型から適応と判断した33例に希望を募り9例が応じた。9例中1例は開始後体調を崩し中断、1例は当初から不要と試聴を拒否した。3ヶ月試聴を続けた7例中、幼少時から山型聴力の1例と経済面で家族が反対した1例を除き5例で補聴器購入に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「要介護高齢者の補聴ニーズと補聴器装用効果に関する研究」において、介護老人保健施設入所者を対象とした研究は基本的で重要なものであり、家庭環境や介護者の条件に左右されない均質の環境下で、聴覚や補聴器装用に関わる要素を明らかにすることができたと考える。しかし、入所者の生活環境は非常に限定されており、対人コミュニケーションや社会的活動に補聴器が活かされる可能性がかなり狭いと感じられた。 そこでわれわれは、要介護状態にありながら在宅で暮らし、通所リハビリテーションによって機能回復を目指す方々を対象に、入所者と同じ方法で聴覚評価と補聴器試聴を実施した。その結果、入所者より割合は低いが74例中58例78%と高率に難聴が認められ、耳垢等、耳内診察結果は入所者と差がなかった。補聴器適応と判断した33例中9例27%のみが試聴を希望し、うち5例で自機購入に至った。従来から自機所有の7例中5例で補聴状態を評価した結果、3例で利得不足が明らかであり、イヤモールドの導入、利得の増強等によって補聴効果の改善が見られた。 以上の結果は、要介護状態にある高齢者に対する耳内診察、耳垢除去、聴覚評価の重要性を示唆しており、また要介護状態にあっても補聴器装用の効果があり、特に居宅の場合は、TV視聴、コミュニケーション、音楽聴取など補聴器装用によって改善される場が少なくなく、十分な支援の下に適切に調整された補聴器を試聴する機会を得ることが、重要で効果的であることが明らかになったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の一連の研究によって、入所、居宅に関わらず介護を要する高齢者の中に高率に難聴が潜在し、十分な手当がなされないままQOLの低下を招いているという実態が明らかになった。また難聴に対する介入については、聴力検査の結果の信頼性や実施可能性、補聴器試聴効果の認識において、入所者より在宅者が明らかに明確で優れていることも明らかになった。要介護高齢者に潜在する難聴への介入が、認知機能低下がより軽度であるうちに、自力で移動が可能なうちに、また経済的に自立しているうちに行われることが重要であることが示されたといえる。とすれば、より早期に、つまり要介護状態、要支援状態になる前に適切な介入を行えば、よりいっそう良い結果が得られるのではないだろうかと考えるに至った。 そこでわれわれは、次に、いわゆる「元気高齢者」を対象に同様の介入を計画した。新オレンジプランに明記されたことでも明らかなように、潜在する難聴を放置すれば、多くの高齢者の認知機能低下を加速させかねない。われわれは、すでに地域包括支援センターの職員の協力を得て、センターで主催する健康教室に集まる元気な高齢者を対象に、聴覚評価を行い、補聴器試聴を行いつつある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関する原著論文を2本、Audiology Japanに投稿し受諾され、2018年6月号に掲載予定であるため、その掲載費用を準備する必要があったため。
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