経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation。以下、TMS)を治療的に適用するという本研究では、事実上は、四肢の運動障害を呈する亜急性期以降にある不全脊髄損傷患者が対象となった。当初の予定よりも適応症例に遭遇する機会がなく、結果的に1症例(頚髄損傷によって四肢麻痺を呈していた70歳台男性)に対してのみしかTMSを適用することはできなかった。しかしながら、本症例に対するTMSの効果は非常に特筆すべきものであった。結局、本症例に対して約3週間にわたってTMS治療(頭蓋正中部に刺激コイルを置き、両側運動野下肢領域を刺激するというもの)を継続して行ったが、これによってはいかなる有害事象も発生しなかった。さらには、この適用によって、上下肢の運動機能がさらに改善を示した。本症例の経験から、不全脊髄損傷患者に対するTMSは安全に施行が可能であり、同患者の四肢運動機能を改善させる可能性が示唆された。なお、この症例の経過は「経頭蓋磁気刺激とリハビリテーションの併用により、運動機能が改善した脊髄不全損傷の一例」と題して、回復期リハビリテーション病棟協会第31回研究大会で報告を行った。また、「Therapeutic application of TMS combined with rehabilitative training for incomplete spinal cord injury: a case report」と題した英文case reportとして、同内容を投稿中である。
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