研究課題/領域番号 |
15K01399
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
松原 貴子 日本福祉大学, 健康科学部, 教授 (30294234)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 疼痛緩和 / 運動 / 慢性痛 / 運動イメージ / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
今年度,「実運動による疼痛緩和(exercise-induced hypoalgesia: EIH)」と「運動イメージによる疼痛緩和(motor imagery-induced hypoalgesia:MIIH)」について検証した。 1.EIHに関して,Regular-exercise bout(一定頻度で数週間~数か月間継続する運動)として,1週間(週5回)と2週間(週3回)の下肢ペダリング運動により,健常者ならびに慢性痛(慢性頚肩痛)有訴者を対象に痛覚感受性および内因性疼痛修飾機能についてdynamic quantitative sensory testing: QST(Temporal summation: TS)を用いて検討した。健常者では,1週間の運動により痛覚感受性,TSに変化はなかったが,2週間の運動で痛覚感受性とTSの減衰を認めた。一方,慢性痛有訴者では,1週間の運動により一部に,2週間の運動により広範部位に痛覚感受性とTSの減衰を認めた。Regular-exerciseは健常者のみならず慢性痛有訴者においてもEIH効果をもたらし,そのメカニズムに内因性疼痛修飾系が関与し,慢性痛有訴者の内因性疼痛修飾機能を改善・調整する可能性が示された。 2.MIIHに関して,上記のRegular-exerciseによる効果検証へ計画変更したが,併行して実験を進めた結果,パイロットデータを得るに至った。運動イメージ能力の定性評価に加え両手干渉課題による定量評価を行った上で,トレッドミル歩行の1人称運動イメージを行った結果,健常者でのみ広範部位の痛覚感受性とTSの減衰を認め,慢性痛有訴者では一部の痛覚感受性低下に限られた。内因性疼痛修飾機能の異常が疑われる慢性痛患者では,病態によってMIIH効果が異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展した点として, 1.EIHに関して,(1)Single-exercise boutだけでなくRegular-exercise boutによる効果について,(2)dynamic QSTによる内因性疼痛修飾機能まで評価に加え,(3)健常者のみならず平成29年度計画の慢性痛有訴者を対象として成果を確認できた。さらに,Regular-exerciseによるEIH効果の規定因子として,運動頻度,期間,合計時間を振り分け研究デザインを深化させた,平成29年度の新たな研究計画についてパイロットスタディに着手できている。 2.MIIHに関して,平成28年度当初に上記1「(実運動による)EIH」研究へ計画変更(申請)したが,EIHに加え,「(運動イメージによる)MIIH」研究を併行して進めることに努め,(1)運動イメージ能力を定性的のみならず定量的に判定したうえで,(2)運動イメージによる疼痛研究ではこれまで検証されていないdynamic QSTによる評価を行い,(3)健常者および平成29年度計画の慢性痛有訴者の両データを得るところまで至った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として,現在,平成29年度計画であった「慢性痛有訴者を対象としたEIHおよびMIIH の有効性の検証」について, 1.EIHに関しては,すでに慢性痛(慢性頚肩痛)有訴者を対象としたSingle-boutのみならず1~2週間のRegular-boutのEIH効果まで確認できているため,平成29年度にはEIH効果の規定因子となるRegular-boutの運動頻度,期間,合計時間についての検証へ向け,3週間以上で週内頻度を振り分けたRegular-boutによる有効性とさらに長期効果について,dynamic QST(TSにConditioned pain modulation: CPMも加え)による評価に基づき,現在すでに進めているパイロット研究を発展させ,研究の集大成を行う。 2.MIIHに関しても,すでに慢性痛(慢性頚肩痛)有訴者を対象としたデータを得始めているため,平成29年度には対象者数を増やすとともに,EIH同様にSingle-boutのみならずRegular-boutによる運動学習効果を含め,運動イメージの介入デザインを増やして検証を進める。 研究を遂行する上での課題として,内因性疼痛修飾系の機能解析には痛覚感受性計測装置によるdynamic QSTが必須であるが,上記の複数プロジェクトを遂行するにあたり,多数の対象をある一定環境(同季節・気候)内でデータ採取しようと思えば,現在の計測装置数でも全く不十分かつ過用による故障リスクが高く,その対応策として,痛覚感受性計測装置の追加購入または既存装置の保全修理を予算内で検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
内因性疼痛修飾機能の定量評価dynamic QSTに必須であり,世界標準的に用いられている痛覚感受性計測装置(Algometer type II,SBMEDIC Electronics社,本科学研究費補助金にて購入)による測定データをもとに,この領域を牽引するArendt-Nielsen L博士とGraven-Nielsen T博士(Aalborg大学,デンマーク)より国際学会(EFIC Pain Congress 2015,16th World Congress on Pain 2016)にて直接指導いただいた。本計測装置を用いた我々研究室のdynamic QSTデータは本邦で最多となっており,両博士はじめ多くの研究者と討議を深めてきた。しかし,本装置の使用頻度は非常に高く,過用のため保全・故障対応のリスクが高まっているため,本装置の追加補充または既存装置の保全修理の必要性がある。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画よりも進展している本研究課題において,平成29年度の研究計画として慢性痛有訴者を含め対象者数をさらに増やすとともに,EIHおよびMIIHに関する2大プロジェクトを一定環境(同季節・気候)内で実施するために,痛覚感受性計測装置(Algometer type II,SBMEDIC Electronics社)を予算内で1台購入,または既存装置の保全修理をすることにより,さらにデータ採取・解析を加速・推進させる。
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