研究課題/領域番号 |
15K01401
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研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
森 禎章 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (70268192)
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研究分担者 |
山路 純子 (田代純子) 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 准教授 (40340559)
廣島 玲子 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 准教授 (40404777)
宮崎 彩子 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (20298772)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミオシン重鎖タイプI / インターロイキン-6 / カルシニューリン / 多価陽イオン |
研究実績の概要 |
廃用性筋萎縮においては骨格筋においてタイプI線維が著明に減少することが知られている。このため、タイプI線維の収縮蛋白であるミオシン重鎖タイプI(MyHC I)を増加させる因子として、インターロイキン-6(IL-6)の存在が注目されてきたが、IL-6は免疫細胞より分泌される他、運動負荷による低酸素やグルコース欠乏により骨格筋細胞からも分泌され、オートクライン・パラクラインにより骨格筋細胞に作用することで収縮蛋白を増加させることが明らかになっている。また、骨格筋細胞は興奮収縮連関を繰り返すため、その本質は細胞内Ca2+増加によりCa2+依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンが活性化され、転写因子であるNFATが活性化されることによりIL-6の産生が増加することであると思われる。 これまで我々は、分子生物学実験によりカルシニューリン活性化剤としてのクロロゲン酸や不飽和脂肪酸の投与によりIL-6およびMyHC IのmRNA発現量が増加することを見出してきたが、TRPチャネル等を阻害して細胞内Ca2+濃度を低下させる目的でLa3+を投与すると、IL-6およびMyHC IのmRNA発現量が増加することを見出した。La3+によるこれらのmRNA発現量増加がサイクロスポリンAの同時投与により抑制されることから、細胞内に流入したLa3+がCa2+非依存的にカルシニューリンを活性化したものと考えられた。そこで、他の多価陽イオンについても検討したところ、Gd3+およびNi2+の投与においても同様の結果を得た。 本年度は、電気生理学実験により多価陽イオンのC2C12細胞への流入経路を検討等するためにパッチ・クランプ実験装置を構築し、ホールセル記録法による細胞膜電流の測定を行うことで基礎実験を終了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、C2C12細胞を用いたパッチ・クランプ実験装置を完成させて電気生理学実験を行い、La3+、Gd3+、ならびにNi2+の細胞内への流入経路を同定する予定であった。パッチ・クランプ実験においては、昨年度にパッチ・クランプアンプのインターフェースをUSB仕様に改修し、パッチ・クランプアンプとコンピューター(Apple社iMac)との接続を行うことで、無事に動作することを確認し、パッチ・クランプとノイズ除去装置(Quest Scientific社HumBug)との接続も行い、これを介してデータ記録装置(ADInstruments社PowerLab 2s)よりコンピューター(Apple社MacBook Air)に問題なく記録されることを確認していたため、電気的な部分においてはパッチ・クランプ実験装置はほぼ完成を迎えていた。さらに昨年度、新たに購入した倒立顕微鏡に設置するマニピュレーター装置の完成を試み、既存のマニピュレーターの改修ならびにメインテナンスを行い、既存のマニピュレーターを新しい顕微鏡に取り付けるためのアダプタの作成等を特注にて行った。しかし、新しい顕微鏡に取り付けるアダプタの位置調整に手間取り、一旦作成されたアダプタの改修作業等が遅延したため実験の進捗が遅延している。しかし、本年度にアダプタの作成とマニピュレータの取り付けが完了してパッチ・クランプ装置全体がほぼ完成を迎え、C2C12細胞を用いたパッチ・クランプ実験を開始した。現在は、ホールセル記録法による全細胞電流を観察できた状態であるため、進捗状況としてはやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、パッチ・クランプ実験装置が概ね完成を迎えたため、次年度はC2C12細胞を用いたパッチ・クランプ法による薬剤投与実験をおこなう。 まず最初に、C2C12細胞を用いたパッチ・クランプ法のホールセル記録法により、La3+電流、Gd3+電流、Ni2+電流の記録をおこなう。C2C12細胞は、2%FCS含有培養液中で3日間分化させたものを実験当日にトリプシン処理により単離し、35 mmディッシュに播種後2時間より実験を開始する。電極内液の組成は2 mM CaCl2、1 mM MgCl2、120 mM NaCl、10 mM HEPES、11 mM EGTA、4 mM Mg-ATP、細胞外液の組成は2 mM CaCl2、135 mM NMDG-Cl、10 mM HEPES、10 mM Glucoseとし、細胞外液に300 uMのLa3+、Gd3+、もしくはNi2+を添加し、-90 mVから+90 mVまで15 mVステップの電圧固定を行うことで、ホールセル電流が増加することを観察する。これらの多価陽イオンの投与によりホールセル電流が増加した場合には、Ca2+チャネル阻害剤(SKF96365、2-APB、nifedipine、mibefradil、ω-agatoxin IVA、ω-conotoxin GVIA等)を投与し、ホールセル電流の変化を観察する。これにより、多価陽イオンがどの種類のCa2+透過性チャネルを経由して細胞内に流入するのかが明らかとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度においてマニピュレーター取り付けアダプタを特注にて作成し、マニピュレーターを倒立顕微鏡に取り付け、パッチ・クランプ実験装置を完成させる予定であった。しかし、マニピュレーター取り付けアダプタの作成において、取り付けねじ穴の位置調整に時間がかかり、パッチ・クランプ実験装置の完成が遅れた。このため、昨年度パッチ・クランプ法を用いた基礎実験を行うことが出来ず本年度に行ったため、次年度使用額が生じた。 次年度は、マニピュレーター取り付けアダプタが完成し、パッチ・クランプ装置が実験可能状態となった。このため、本年度遂行できなかったパッチ・クランプ法による多価イオン投与によるチャネル電流測定実験を行う。これに加え、多価イオン投与時に各種イオンチャネル阻害剤を投与し、多価イオンが透過するイオンチャネルの薬理学的同定を行う。この実験を遂行するための実験機器改良費、試薬、培養液等の購入費として助成金を用いる。
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