我々は、これまでの研究で得た温熱が腎に及ぼす循環動態の変化に関するデータ(腎血漿流量は約50%増加する一方で糸球体濾過量は変わらない)から、温熱刺激が輸出入細動脈の両方に血管拡張を生じさせると推察した。ここを着想起点とし、温熱反復刺激が腎糸球体の血管内皮機能を改善し、腎障害の進展を抑制するとの仮説を立て、マウスを用い5/6腎摘除でCKDモデルを作成し、深部体温を約1℃上昇させ約30分程度維持する加温を12週間反復したところ、腎組織でのeNOS (血管内皮型NO合成酵素)mRNAの発現増(p<0.05)を認め、輸出入細動脈の温熱性拡張による糸球体への圧ストレス軽減が示唆された。 さらに腎容積の減少に伴う急性腎障害からCKDへの初期段階で温熱曝露の影響を確認するために、介入期間を12週から4週へ短縮したところ、初期段階でも温熱曝露で有意な血清クレアチニン値、尿中アルブミン量の増悪抑制が確認できた。残存腎摘出後の病理組織像では、予想と異なり糸球体以上に温熱介入により、尿細管障害が軽減された。また尿細管障害マーカーのひとつである尿中NGALも半減していた。急性腎障害からCKDへの進展過程には、近位尿細管障害が間質の線維化や糸球体硬化の引き金になっていること示唆されており、潜在的な腎障害に対して、早期に温熱曝露を介入させることで治療的意義が得られる可能性が示唆された。さらに温熱曝露はTUNEL陽性細胞数、cleaved caspase 3およびROS産生を有意に抑制しており、アポトーシスおよび酸化ストレスの抑制を認めた。また細胞内シグナル伝達としてp38 MAPK、Aktの活性化と、それに続くHsp27のリン酸化亢進が重要な役割を演じている可能性が示唆された。
|