独自に開発したキルシュナー鋼線を用いたラット膝関節外固定手技を用いて、申請者が発見した膝関節拘縮時の坐骨神経周囲に出現する病的変化である坐骨神経束と神経周膜の「密着」および神経周膜の線維化について、それぞれの機序を組織学的、免疫組織学的手法により検討した。その結果、①神経周膜および神経束中に存在する基底膜の主成分であるところのラミニンが、正常コントロールに対し神経周膜神経束密着群では減少しているのに対し、やはり主成分であるところのⅣ型コラーゲンには変化が見られないとの結果を得た。この基底膜の成分の変化が、因果は不明ながら神経束と神経周膜の密着に関わる可能性が示唆された。②同じくキルシュナー鋼線を用いたラット膝関節拘縮モデルに対し、固定期間中に理学療法的手技(関節可動域運動)を行うことにより、神経束と神経周膜の密着が不完全ながら予防ないし開放されたと解釈できる結果を得、理学療法学的手技により坐骨神経周囲の病的状態を予防ないし改善し得ることを示し、治療手技として有効である可能性を示唆した。③この結果は同時に、運動時の神経の滑走が、従来十分なエビデンスを伴わずに議論されてきた神経外膜と脂肪織の間以外にも、この神経束及び神経周膜の部分で発生していることが示された。④また間接的ながら、やはり十分なエビデンスを伴わずに議論されてきた軟部組織性拘縮に、神経が関与していることが示された。これらの結果はいずれもこれまで指摘あるいは議論されてこなかった新たな知見であり、理学療法士の間で経験的に語られてきた神経系による拘縮への関与についてのエビデンスを与えるものであり、理学療法の新たな可能性を提示できたと考える。
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