研究課題/領域番号 |
15K01418
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
坂本 淳哉 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学系), 准教授 (20584080)
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研究分担者 |
中野 治郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学系), 准教授 (20380834)
弦本 敏行 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (60304937)
真鍋 義孝 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (80131887)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 関連痛 / 変形性股関節症 / 肉眼解剖学 / 関節枝 / 二分軸索ニューロン |
研究実績の概要 |
本年度は、股関節疾患患者の膝関節周囲に認められる関連痛の発生機序に関する神経解剖学的基盤を明らかにすることを目的に、日本人遺体における大腿神経および閉鎖神経から分岐する股関節枝および膝関節枝の分布状況について検索した。検索対象は日本人遺体11体11肢(男性7体女性4体、平均年齢は75.2±13.9歳)で、大腿三角において大腿神経と閉鎖神経から分岐する股関節枝を肉眼的に剖出し、同定した。次に、大腿神経と閉鎖神経を構成する神経束を遠位に向かって剖出し、膝関節包に進入する関節枝を同定した。その結果、大腿神経から分岐する関節枝には恥骨筋枝から分岐して股関節前内側に達する枝(11肢中5肢)、腸骨筋枝から分岐して股関節前外側に達する枝(11肢中5肢)が認められた。また、閉鎖神経から分岐する関節枝には、閉鎖神経前枝から分岐して股関節前内側に達する枝(11肢中5肢)、閉鎖神経後枝から分岐して股関節前内側に達する枝(11肢中2肢)が認められた。一方、大腿神経から分岐する膝関節枝には、内転筋管内を通過し膝関節内側に達する枝(11肢中4肢)、内側広筋を貫通して膝蓋骨上内側に達する枝(11肢中4肢)、中間広筋深層で膝関節筋に枝を出した後に膝蓋上包に達する枝(11肢中10肢)、外側広筋を貫通して膝蓋骨外側に達する枝(11肢中1肢)が認められた。閉鎖神経から分岐する膝関節枝は認められなかった。そして、11肢中8肢において大腿神経から分岐する股関節枝と膝関節枝が同時に認められた。これらの結果から、大腿神経が股関節と膝関節を同時に支配しており、このような肉眼解剖学的所見は関連痛の発生機序に関与していると仮説されている二分軸索ニューロンの存在を示す所見ではないかと考えられ、股関節疾患患者にみられる膝関節前面の関連痛の発生に関与している可能性が推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、肉眼解剖学的研究と基礎研究を融合することで股関節疾患患者にみられる関連痛の発生機序を解明し、臨床場面における痛みの病態解釈とそれに基づいたリハビリテーションの展開に寄与することを目的としている。本年度は、上記目的達成のための第1段階として日本人遺体における股関節と膝関節を支配する関節枝の分布状況を肉眼解剖学的に検索する予定であった。当初の予定通り11体の日本人遺体における股関節枝および膝関節枝の分布状況について検討することができており、その成果として大腿神経から股関節枝と膝関節枝が同時に分岐する所見が得られている。そして、この所見は、一般に関連痛の発生機序の仮説として知られている二分軸索ニューロンの存在を示す肉眼神経解剖学的所見と考えられ、同様の報告はこれまでにないことから新規性の高い成果であり、また、今後の動物を用いた基礎研究の礎となる成果でもある。したがって、本研究はこれまでおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は肉眼解剖学的研究を継続するとともに、ラットを用いた動物実験を始める予定である。すなわち、これまでに得られた肉眼解剖学的研究所見は関連痛の発生に関与する股関節を膝関節を同時に支配する二分軸索ニューロンの存在を示す所見であると考えられるが、そのような二分軸索ニューロンの存在を直接的に肉眼解剖学的研究により示すことは困難であり、その代替手段としてラットを検索対象とした神経解剖学的研究を進める。具体的には、ラットの股関節と膝関節それぞれに異なる逆行性神経トレイサーを注入した後に、脊髄後根神経節(DRG)おける各神経トレイサーに標識されるニューロンの検索を通して,二分軸索ニューロンを含めた関節枝の神経支配の状況について検討する。そして、得られた結果を平成27年度の結果と比較、照合することで股関節と膝関節を同時に支配する二分軸索ニューロンの存在について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は肉眼解剖学的研究に使用する目的で長距離モニタダイレクトマイクロスコープおよび専用アームスタンドの購入を予定していたが、本年度に交付された金額に合わせて別のマイクロスコープを購入したため、その差額等により次年度使用額が発生している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は肉眼解剖学的研究と並行してラットを用いた動物実験を行う予定であり、逆行性神経トレイサーの購入が必要であるが、その投与方法等について予備実験等が必要なため、次年度使用額はラットを購入するために使用する予定である。
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