本研究では、骨盤の動きに制限を加えた時の歩行の機械的効率性や下肢・体幹の運動学的指標、下肢の筋活動に与える影響を明らかにすることを目的とした。 平成27年度は、脚長差および一側膝関節を伸展位に固定した場合の影響を調べた.脚長差の増加に従い,骨盤と上部体幹のなす側屈角度は,長脚側への側方傾斜が減少,短脚側への側方傾斜が増大し、長脚側の腰部脊柱起立筋と膝伸展筋、短脚側の中殿筋,膝伸展筋,足底屈筋群の活動が増加した。上下方向の重心移動幅は脚長差5㎝に対して2㎝程度の増加に抑えられており、機械的効率性に有意な変化はみられなかった.膝固定時では,裸足と比較して,骨盤の後傾が増加し、側方、上下方向の重心移動の増加がみられた。また、長脚側の脊柱起立筋,足背屈筋,短脚側の大殿筋,中殿筋の筋活動の増大がみられた. 平成28年度は、一側股関節の動きに制限を加えた場合の影響を検証した.股装具装着での無制限,伸展制限,内転固定,外転固定の4条件の比較では、側方移動幅が内転固定時に小さくなり,外転固定時に大きくなるが上下の移動幅には有意な変化はなく、歩行の機械的効率性も条件間による差はみられなかった.股伸展制限時の骨盤,体幹の矢状面上での運動に注目すると,歩行中の股関節伸展角度の減少を骨盤前傾で代償することで,絶対空間上の胸椎部の屈曲伸展運動の変化を抑制していた. 平成29年度は、体幹に運動制限を加えた場合の歩行への影響を検討した。脊柱固定により、スライド長が有意に減少するとともに、骨盤の側屈、回旋、骨盤-胸腰部間の運動範囲、胸椎屈伸、側屈、回旋運動範囲、両側股関節内外転運動範囲が減少し、重心の上下移動幅も低下した。力学的因子として両側床反力垂直成分ピーク値の増加や両側股、膝伸展モーメント、両側足、膝関節仕事量の増加がみられたが、歩行の機械的効率性を示す指標においては有意な変化はみられなかった。
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