研究実績の概要 |
運動による疼痛抑制(exercise-induced hypoalgesia: EIH)の脳メカニズムの解明を目的として実施した本研究課題における本年度の成果は、①坐骨神経部分損傷(PSL)マウス(神経障害性疼痛モデルマウス)に自発運動(VE)を行わせると、背外側被蓋核(LDT)-コリン作動性ニューロンと視床下部外側部(LHA)-オレキシンニューロンが活性化され、さらに腹側被蓋野(VTA)に逆行性トレーサー(Retrobeads Red)を注入したマウスにVEを行わせると、VTAに投射するLDT-コリン作動性ニューロンとLHA-オレキシンニューロンが活性化されることが分かった。このように私達は、VTA-DAニューロンの活性化にはLDT-コリン作動性ニューロンとLHA-オレキシンニューロンが関与することを突き止めた(Kami, Tajim、Senba. Sci Rep., 2018)。痛みの慢性化には脳報酬系を含むmesocortico-limbic systemの機能不全が重要な役割を担っている。そこでmesocortico-limbic systemの構成核の一つである扁桃体に焦点を当て、EIHに及ぼす影響について検討したところ、②VEは側坐核(NAc)に優先的に投射する扁桃体基底核内側部(medBA)のglutamate(Glu)ニューロンを活性化し、扁桃体中心核(CeA)では、PSLはGABAニューロンの活性化を高めたが、PSL+VEはこれらの活性化を抑制することがわかった。以上、本年度は、VEはmedBA-Gluニューロンの活性化を介してNAc-GABAニューロンを活性化することでEIH効果の発現に関与するとともに、VEによるCeA-GABAニューロンの抑制は、痛みに伴う不快情動の消去にも影響を及ぼすという非常に興味深い成果を得ることができた。
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