研究実績の概要 |
呼吸方法の指導は呼吸困難に対するリハビリテーションの代表的な介入であるにもかかわらず、その作用機序と効果に関する科学的根拠は十分に蓄積されていない。本研究は呼吸指導の作用機序を科学的に実証することを目的とするものである。 特に今回は、呼吸方法の指導として先行する呼気において呼気筋活動を強調して努力性に呼出させた場合に、上昇した腹腔内圧が横隔膜をいったん胸腔側に移動させ、次の吸気における横隔膜の運動範囲を増加することで吸気の陰圧発生を増加し、結果的に一回換気量を増加させるという作用機序の仮説を立証することを企図とした。そのため、健常成人男性を対象者として、換気量の測定および超音波画像診断装置を用いた横隔膜および腹横筋(腹斜筋群)の呼吸筋活動指標に加えて、経鼻的に胃食道内に留置した多チャンネル圧力センサー付きバルーンカテーテルを用いて胃内圧(腹腔内圧指標)および食道内圧(胸腔内圧指標)を連続測定し、相互の関係性について検討した。 結果、8例を対象とした検討に於いて、呼吸指導によって先行する呼気における胃内圧が有意に増大(P<0.001)し、次の吸気における胸腔内陰圧も有意に増大(P<0.001)するとともに、横隔膜移動距離は胃内圧の上昇程度と有意な正の相関(r=0.92, P<0.001)を、また、胃内圧と食道内圧との間にも有意な正の相関(r=0.60, P<0.001)を認めた。以上のことから、呼吸指導の作用機序についての仮設を立証し得た。
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