本研究の目的は,1)脳酸素動態に影響する体循環および換気の要因を明らかにすること,2)脳酸素動態に基づいた新しいリスク管理基準を作成することの2点であり,これにより運動療法による疾病予防や再発予防の安全性向上に寄与することを目的とする. 平成29年度は,平成28年度に明らかにした低強度運動および高強度運動中に生じる脳内酸素化ヘモグロビン変動に基づき,リスク管理指標の作成に向けた測定項目同士の関係を解析した. 低強度運動では,運動開始後4~5分で上昇した酸素化ヘモグロビンは,運動終了まで持続した.運動が終了しペダリング運動を停止すると,平均血圧の低下と同期した酸素化ヘモグロビンの低下が生じた.一方,酸素化ヘモグロビンの変動に強く影響するとされる呼気終末二酸化炭素濃度と酸素化ヘモグロビンとの間には,相関関係は見いだせなかった.運動後の酸素摂取量は徐々に低下しており,酸素摂取量と酸素化ヘモグロビンとの間にも相関関係は見いだせなかった. 高強度運動では,運動開始後4~5分間で酸素化ヘモグロビンは上昇し,その後運動終了まで低下を続けた.この間,呼気終末二酸化炭素濃度は維持または上昇しており,酸素化ヘモグロビンの変動とは異なっていた.酸素摂取量および平均血圧の変動との関係も見いだせなかった.運動終了直後は,低強度・中強度運動と同様に,平均血圧の低下と同期した酸素化ヘモグロビンの低下がみられた. 低強度・中強度・高強度運動のいずれの運動でも,運動終了後に平均血圧の低下と同期した酸素化ヘモグロビンの低下が生じた他が一時的であり,酸素化ヘモグロビンは運動終了2~3分後には,運動中と同程度まで再上昇をした. 運動後のリスク管理において,平均血圧の変動がリスク管理に重要であるものの,運動後1~2分に限定される可能性を示唆する結果であった.
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