本研究は,物理的な刺激が骨支配の自律神経を介して骨量を増やす可能性を検討し,骨粗鬆症の予防・治療に寄与することを目的とした.平成27年度には麻酔下ラットで大腿骨支配の交感神経活動を記録することに成功した.この神経は動脈に沿って栄養孔から大腿骨に入る枝で,その活動の特性から交感神経血管収縮神経と考えられた.しかし,この枝は非常に短いため刺激も記録も難しく,慢性的に刺激をしたり,この神経活動への物理的刺激の効果を調べることを断念し,方針を変更した. 平成28年度には骨粗鬆症モデルラット(卵巣除去+無カルシウム食)で一側の大内臓神経を切除し,8週間後に左右の大腿骨の乾燥重量を調べたが,左右差は認められなかった.この原因として,副腎髄質カテコールアミンが影響を及ぼした可能性と,無カルシウム食摂取下では骨量が増加しづらい可能性が考えられた. これらの結果を踏まえ,平成29年度には骨粗鬆症モデルラット(卵巣除去)で大腿骨支配交感神経の両側除去(腹腔神経節除去)及び副腎髄質交感神経叢の両側除去の効果を調べた.骨量の増加を促すために長期的にトレッドミル走行を行い,大腿骨の湿・乾燥重量を調べたが,神経除去群と非除去群で有意差は認められなかった. 平成30年度は,平成29年度に摘出した大腿骨をさらに解析し,骨塩量,骨面積(骨幅),骨密度を計測したところ,神経切除群では骨塩量が有意に増加していた(p<0.05). 本研究により①大腿骨支配の交感神経が血管収縮神経であることが示唆され,②骨粗鬆症モデルラット(卵巣除去)に長期的運動をさせる条件下で,大腿骨支配交感神経を除去すると骨量増加を促進することが明らかになった.これらの結果は,骨支配交感神経活動を低く保ち,適度な運動をすることが骨粗鬆症の予防・改善に有効であることを強く示唆する.現在,これらの成果を公表するために論文を執筆中である.
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