本年度は,頸部を介して自己受容感覚野と聴覚野を刺激する骨伝導音刺激により,静止立位バランス能の改善が見られるか否かを検討した。実験では,聴覚および自己受容感覚に障害のない若年健常者を対象に60秒間静止立位維持課題を課した。音刺激条件は白色雑音,無音の2条件で,各条件を2つの視覚条件(開眼・閉眼)で行った(2×2=計4条件)。音刺激はMatlab(MathWorks社)により作成・制御され,骨伝導ヘッドフォン(AFTERSHOKZ社)により顎骨を介して適用された。 静止立位課題はいずれもフォースプレート(AMTI)上で行われ,課題中の足圧中心位置が1000Hzで記録された。20Hzのローパスフィルタで高周波数域のノイズを除去後,位置データの標準偏差,および位置の微分データの標準偏差が算出された。標準偏差は前後・左右方向別に計算された。微分データは,位置データ以上に加齢や運動・感覚機能障害の影響を反映することが報告されているため,本解析においても採用された。 その結果,視覚条件の影響は微分データにおいて有意差が示され,閉眼条件において有意に値が増大した。一方,音刺激条件に関しては,位置データ・微分データ双方において有意な影響が認められなかった。この結果は,少なくとも本実験設定での骨伝導音刺激は,姿勢バランスの改善には有意な効果をもたらさなかったことを意味する。 最近の先行研究においては,白色雑音の適用が姿勢バランス能を改善したという報告もみられるが,本研究ではそのような結果が得られなかった。それが音量等の詳細条件の違いによるものか,骨伝導ヘッドフォンによる影響なのかは今後さらなる検討が必要となる。
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