研究課題/領域番号 |
15K01453
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
綾屋 紗月 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (40641072)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 当事者研究 / 自閉スペクトラム症 |
研究実績の概要 |
目的1.テキスト・マイニング・自然言語処理分析と質問紙票調査 発達障害者を中心とした当事者研究会の音源データをテキスト化し、自然言語処理およびテキスト・マイニングを行った。その結果をもとに「ASD者の変わりにくい個体要因」および「ASD者に合った社会や言語のデザイン」についてそれぞれ仮説を唱え、論文発表を行った。また、質問紙票調査から自然言語処理技術に基づくクラウド・ソーシングシステムを作成し、論文発表を行った。さらに障害特性について尋ねるWEBアンケートシステムを製作した。 目的2.ソーシャル・マジョリティ研究会の実施とテキスト作成 ASD者を対象として、ソーシャル・マジョリティ研究の追加講義を行った。また、書籍化に向けて、セミナー講師7名とともに約1年かけて原稿作成に取り組んだ。 目的3.他障害との比較によるASD者に合ったコミュニケーション様式の検討 「当事者研究のやり方研究会」を、1年間(2015年6月から2016年8月)、月毎に開催し、統合失調症者を中心とした「べてるの家」、薬物依存症者を中心とした「ダルク女性ハウス」、発達障害者を中心とした「おとえもじて」など、複数の当事者研究実践グループが集まり、主にファシリテーション技法について記録・リフレクション・議論を進め、その分析の一端を論文にて発表した。また、2017年3月7日から9日まで、イギリスにて国家レベルで行われている、精神医療におけるリカバリーの取り組みについて、視察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的1:テキスト化された記録に対して、自然言語処理・テキスト・マイニングを行い、1) ASD当事者の変わりにくい個体要因(impairment)、2) ASD当事者に合った社会や言語のデザインの二点に注目して仮説を抽出した。前者に関しては綾屋紗月(2016、金芳堂)として発表し、後者については綾屋紗月(2016、東京大学出版会)として発表した。質問紙票調査に関しては、自然言語処理技術に基づくクラウド・ソーシングシステムの構築を行い、論文発表した(Aramaki, Shikata, Ayaya, Kumagaya, 2017, in press) 。障害特性を取得するWEBアンケートシステムも構築し、2016年10月から始めた臨床研究(ASD当事者を中心としたグループである「おとえもじて」での実践をマニュアル化し、2016年9月に東京大学ライフサイエンス委員会臨床審査委員会の承認を得た。承認No.16-100)において、データの取得分析を始めている。 目的2:前年度の分析を含めて、当事者の疑問に答えるための講義を、前述の臨床研究のプログラムの一部として行った。また、講義内でのASD当事者の5時間分の語りをテキスト化した。講演者7名との打ち合わせを重ね、書籍化に向けた原稿作成がほぼ完成しつつある。これを用い、一般大学生を対象とした授業を計画している。 目的3:2015年6月から2016年8月にかけて、毎月、当事者研究の経験が豊富な3つのグループを中心に、定期的に当事者研究の運営方法に関する研究会を開催し、互いの実践を比較検討した。その結果を綾屋紗月(2016、現代思想)にて発表した。また2017年3月7~9日、英国でのピアスタッフや当事者研究者の活動について視察を行った。さらにソーシャルワークの歴史、認知行動療法、ナラティブアプローチ、リカバリーアプローチに関する文献調査も行った。
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今後の研究の推進方策 |
目的1.テキスト・マイニング・自然言語処理分析と質問紙票調査 分析方法にテーマ分析を加え、ASD者におけるリカバリーの要素について分析を行う。また、抽出された固体要因(impairment)についての仮説の一部を刺激発生装置を用いて検証する。 目的2.ソーシャル・マジョリティ研究会の実施とテキスト作成 これまで書籍化に向けて作成してきた原稿を出版することを目指す。完成した書籍をふまえた追加講義を行い、引き続きASD者の語りを記録する。 目的3.他障害との比較によるASD者に合ったコミュニケーション様式の検討 2015年‐2016年に行った当事者研究のやり方研究会、2016年に行った臨床研究のほか、当事者研究の実践場面を追加記録し、そのビデオデータをエスノメソドロジー・会話分析の手法を用いて、引き続き詳細に分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
定型の大学生とASD者を対象にした、定型社会のデザインをトピックとした質問紙票調査を行う予定であったが、対象者のリクルートに時間がかかったため、質問紙票調査以外の方法で計画を再検討する必要が生じ、新規の計画のために予算を次年度に持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
質問紙票調査に代わる研究方法としてテーマ分析を採用するにあたり、質的データのトランスクリプト作成やテーマ分析用ソフトウェア購入費用などにあてる。
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