研究課題/領域番号 |
15K01473
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
淵岡 聡 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 教授 (30290381)
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研究分担者 |
樋口 由美 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 教授 (60312188)
岩田 晃 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 准教授 (90382241)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歩行速度 / 立脚中期 / 重心移動速度 / ステップ長 / 体幹 / 運動介入 |
研究実績の概要 |
本研究は,高齢者の健康関連指標と強い関連がある歩行速度を維持・向上させる介入手段として,コンバインドエクササイズを考案し,その効果を検証することを目的としている。 コンバインドエクササイズの目的は,(1)体幹の素早い反復運動能力の向上と(2)歩行周期の立脚中期における体重の前方移動速度の向上である。今年度は(2)を中心に,遊脚速度を速めることにより立脚期における体重の前方移動速度向上を目指して検証を重ねた。 これまでの研究により,通常の歩行周期における立脚期の中でも,足底圧中心が中足部を移動する速度,すなわち立脚中期における体重の前方移動速度のみが歩行速度と強い相関関係にあることを明らかにした。歩行速度はステップ長とケイデンスによって規定されるため,立脚中期の体重移動速度をより選択的に向上させる方策として,ステップ長の延長による歩行速度向上の際の運動力学的な特性について詳細な分析を行い,遊脚側下肢の振り出し速度を向上させることによる立脚中期の体重前方移動速度向上効果を検証した。具体的には,歩行中に股関節屈曲を補助する装具を作成し,遊脚初期の股関節屈曲をアシストすることにより遊脚速度を向上させ,ステップ長を延長することにより歩行速度を向上させることができるかどうかを検証した。 装具装着下での予備実験においては,ステップ長の延長が見られ,主観的にも「下肢が振り出しやすい」,「歩くのが速くなったような気がする」などの意見が聞かれたので,歩行速度向上効果の検証実験を実施したが,結果として,装具の股関節補助力が上方へ作用したため,ステップ長の延長を得ることができず歩行速度の向上効果が得られないことを確認した。これらを踏まえ,現在,装具の大腿部装着位置を下腿近位部に変更し,遊脚期の下肢振り出し速度向上とステップ長の延長への貢献度を検証しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コンバインドエクササイズの要素である「体幹の素早い反復運動能力向上」のための介入手段であるSSTについては,体幹の側方移動距離を5cm,10cm,20cmの3条件で2ヶ月間の介入実験を行った結果,10cm条件が最も適した運動介入であることを明らかにできた。 加えて「立脚中期における重心移動速度向上」のための条件を決定するため,速度の異なる歩行における股関節と足関節のパワー変化について詳細な検討から,コンバインドエクササイズに必要な立脚中期の重心移動速度向上のためには,立脚後期の股関節屈曲パワーと足関節底屈パワーを同程度に増加させる必要があることがわかり,介入手段の必要条件の一端を明らかにすることができた。そこで,股関節屈曲と足関節底屈を同程度にパワー増加させるため,立脚後期に股関節屈曲を補助できる装具を作成し歩行パラメータを検証した後に装具の仕様を決定し,歩行解析を行った。その結果,遊脚初期の下肢振り出し速度は向上したものの,ステップ長が減少し,歩行速度の向上が得られなかった。これは股関節屈曲補助力の方向が前方ではなく前上方に作用してしまったため,立脚初期の股関節屈曲角度および角速度が増加し過ぎ,大腿部を上方に引き上げる力が強く作用したことが原因と考えられた。 この結果より,股関節屈曲補助力の作用点を膝関節より遠位に設定することにより,前方への下肢の振り出しを補助し速度の向上を図ることが可能と考えられた。現在は装具の装着方法を変更して,歩行中の股関節屈曲をより効果的に補助できる使用法の検証を進めているところである。 これまでに「体幹の素早い反復運動能力向上」のためのトレーニング条件,「立脚中期における重心移動速度向上」のための歩行方法を明らかにすることができており,今後はこれらの組み合わせ(コンバインド)トレーニングの効果を明らかにすることを目的に検証を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在,股関節補助装具の大腿部の装着部位を下腿近位部に変更し,歩行速度向上効果の検証を行なっているところである。遊脚期の下肢振り出し速度の向上と歩行速度の関連性を明らかにするため,ステップ長,ケイデンス,歩行速度等のパラメータ計測に加え,歩行中の体幹の加速度分析を合わせて実施する。歩行中の体幹の前後方向における加速度は歩行速度に直結する指標である。また,体幹の左右方向への加速度は,歩行中の体幹の揺れ幅の指標であり,より安定した歩行のためには側方動揺が小さい方が良いとされている。このため,通常歩行と随意的に遊脚期の下肢振り出し速度を高速化した場合の体幹の前後および左右方向への加速度変化の特徴や差異を明らかにし,より有効な介入手段を確定させる。 これらの分析後,随意努力による遊脚期の下肢振り出し速度の高速化と,体幹の側方移動運動(Seated Side Tapping:SST)を組み合わせたコンバインドエクササイズの介入効果を検証する。 具体的には,コンバインドエクササイズの介入前後に,ステップ長,ケイデンス,歩行速度等のパラメータ計測に加え,歩行中の体幹の前後及および左右方向への加速度分析を実施し,歩行速度の向上とともに,その要因についても分析する。今年度前半までにこれらの結果をまとめ,コンバインドエクササイズの介入効果に関する研究の公表として関連学会で報告する。合わせて,WEBページを作成し,研究成果を広く公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:歩行の立脚中期における重心移動速度を速めるための手段として,年度の後半に股関節屈曲補助装具を製作したが,この実験用装具の装着方法について試行錯誤を繰り返す中で年度末が近づき,最終的な研究成果であるコンバインドエクササイズの介入効果の検証を行うことができなかった。検証実験に必要な環境および計測機器類は全て整備されており,今後の研究遂行には何ら問題はないが,結果公表のための学会出張の旅費等が必要となり,次年度使用額が生じることとなった。 使用計画:研究成果公表のための学会出張に伴う参加費および旅費に加え,最終的な研究成果の公表を目的にWEBページを作成する費用として使用する予定である。
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