本研究は重度肢体不自由者を対象とした残存機能を用いた意思伝達支援装置の研究を行った.筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とし,残存機能として眼球運動に着目した.申請者はこれまで眼電位を用いたスイッチ操作の検討を行っており,単一スイッチでの意思伝達支援装置として,走査入力方式による文字入力の検討を行っていた.しかし,単一スイッチによる走査入力方式では文字入力に時間を要してしまう.そのため,利用者は意図的に文書を簡略化してしまう傾向が確認された.そこで,本研究は眼電位より複数の入力動作を提案し,符号化入力方式の検討を行った. これまで単一スイッチの入力動作として,一つの入力動作を用いていた.しかし,符号化入力方式を用いるために複数の入力動作を提案する必要がある.また,入力動作には「誤入力が少なく日常的で生じない動作」が求められる.そこで,随意性瞬目および注視位置を用いた入力動作の検討を行った. 瞬目には随意性瞬目と不随意性瞬目があり,随意性瞬目は不随意性瞬目と比較し,有意に大きな電位が生じる.また,眼電位では上方,下方など大まかな位置を推定することは可能である.そこで,随意性瞬目と注視位置を用いて複数の入力動作を提案した.これらの動作を用いることで,符号化入力方式の検討を行った. その結果,随意性瞬目と注視位置を用いた入力動作の入力成功率は高いが,符号化入力方式での文字入力は走査入力方式と比較し入力回数が増え,また,符号を記憶する必要があるため,文字入力に時間を要する結果となった.また,誤った符号を入力すると,改めて符号を入力する必要がある.したがって,より多くの時間を要する結果となった.しかし,符号化入力方式では一つの符号あたりの入力精度は高く,符号を予測機能や入力支援をすることで有効な入力方式になると考えられる.
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