研究課題/領域番号 |
15K01481
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
川澄 正史 東京電機大学, 未来科学部, 教授 (40177689)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 健康・福祉工学 |
研究実績の概要 |
移動しながらの携帯端末利用(所謂歩きスマホ)が歩行弱者への安全に影響を及ぼすことから,各種対策が検討されているものの利用者の危険意識は低いままであり,歩行者側が多くの注意を払い危険回避せねばならない状況である.高齢者の転倒が社会的問題となり転倒予防事業が展開されるのに逆行して,歩きスマホの増加により高齢者の歩行環境は悪化している.そこで本研究では,高齢者の外出時の心配を減じる観点から,歩行支援に有用な情報整理を工学的に行う.携帯端末利用者の周囲への注意度評価,姿勢制御・歩行等の解析,生理状態計測を行う.また,歩きスマホに遭遇した際の反応・挙動を計測・解析する. 身体機能の差および障害物の大きさの違いによる,歩きスマホ時の障害物への反応差を調べるための実験を行った.20mの歩行路に障害物を設置し,端末課題の有無による歩行状況を観察した.また,歩行の足底圧力に着目し,歩きスマホ歩行と通常歩行との違いを調べるため,インソール型の足圧分布計を用いて解析を行った.歩行速度を一定に指定した歩行,指定しない自由歩行を調査した.歩行中の蹴り出しや歩行速度に関わる足指部付け根に着目して実験を行った. 以上に引き続き,利用者が周囲に払う注意の生理学的指標による検討を継続するため,現有のウェアラブルな視点計測用アイカメラと計測システムを改良し,次の項目を実施した. 視点の動線解析を実現するため奥行き情報獲得の必要があり,現有のアイカメラを両眼同時計測・記録可能なシステムに改良した.計測を通して改良を継続する.携帯端末の画面サイズやコンテンツをパラメータとして変え,画面を注視した際に周辺への注意が低下する状況を分析した.注視画面の周囲に反応用ターゲットを設定し,反応時間をパラメータとして周囲への注意に及ぼす影響を分析した.視野範囲,視線移動速度,反応時間等により注意度について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,携帯端末利用者の周囲への注意度評価,姿勢制御・歩行等の解析を行う.平成27年度は,歩きスマホ時の障害物への反応差を調べるための実験,高齢者の周辺視野の狭窄の疑似を目的とした視野および下肢の制限下における歩行状況を調べるための実験を実施した.結果,いずれの条件下においても歩行速度低下,周囲障害物への接触回数増加がみられた.特に,メール使用時(端末課題)には歩行速度低下,および接触回数の増加が顕著であり,歩行面から15cm以下にある障害物,および胸の高さの障害物への接触回数が増加した.また,足底圧力に着目し,歩きスマホ歩行と通常歩行との違いを調べるための実験とそれぞれの解析を行った.端末課題を付した場合の自由歩行では足指部付け根の圧力が低下する傾向が見られた.歩きスマホでは,歩行中の蹴り出しと歩行速度が低下した. 平成28年度は,利用者が周囲に払う注意の生理学的指標による検討を継続して実施した.現有のウェアラブルな視点計測用アイカメラと計測システムを改良した.結果,現有のアイカメラは両眼同時計測・記録可能なシステムになった.計測を通して改良を継続する.視点の動線解析を実現できる環境となった.また,携帯端末の画面サイズやコンテンツをパラメータとして変え,画面を注視した際に周辺への注意が低下する状況を分析した.注視画面の周囲に反応用ターゲットを設定し,反応時間をパラメータとして周囲への注意に及ぼす影響を分析した.結果,画面が大きいと周囲への注意に必要な前方の有効視野を遮ること,および焦点を合わせる対象が小さいと有効視野を狭めることがわかった.視野範囲,視線移動速度,反応時間等により注意度につき検討した. 以上のように,本研究に関わる基本的部分の計測システムを改良し,実際の計測と解析を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き,利用者が周囲に払う注意の生理学的指標による検討を継続する.また,平成28年度から継続して実施するが,分析対象を歩行中へと展開する.停止時と歩行時の違いを検討する.歩行者の外界観察の視点の動線を計測し,これをコントロール情報とする.画面注視を指示されて歩行した利用者の視点の動線とコントロールとの違いを比較・解析し,周囲への注意の払われ方の特性を調べる予定である. また,歩行機能の低下などを伴う高齢者の歩行においては,クリアランス,蹴り出し力などが減少,低下している.歩行中の高齢者が向かってくる歩行スマホに向かい合った際に取る退避行動の危険性につき検討する.膝関節の可動制限などにより歩行機能低下状態を作り健常者により実験する.膝関節の可動制限は高齢者擬似体験セットを使用する.足底圧力計を使用して,足底圧中心軌跡と足指部,前足部,踵部の足底圧力を算出して検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定とした分析用ソフトウェア、センサ消耗品、計算機周辺パーツ、等の購入が次年度に回ったこと、調査旅費がかからなかったこと、が大きな理由である。なお、実験等計画が遅滞した訳ではない。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額はソフトウェア、センサ消耗品、計算機周辺パーツ、等の購入および旅費に使用予定である。翌年度分として請求した助成金の使用計画に大きな変更はない。
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