研究課題
本研究は、歩行運動の際の環境の変化に応じた新たなスキルの発現と獲得における脊髄小脳ループの役割について、ラットを用いた生理学的実験とその神経筋骨格モデルによる動力学シミュレーションの両面から解明することを目的としている。本研究では、運動スキルを構成する多くの要素のなかで特に運動学シナジーに焦点を当てるが、運動の生成における神経・筋系の冗長多自由度性の問題に対して、実際の運動においては複数の関節が時間的・空間的関係性を保ちながら動くというように、関節間の協調としての運動学シナジーを環境の変動に適応的に、あるいは目的に最適化することにより運動スキルは達成されると考えられるからである。歩行運動時の運動学シナジーは、外乱を加えることによって顕著に具現される。予測できない外乱を歩行中に加えれば、それに対する運動学シナジーの動態を観察することができ、さらに、外乱を予測して適応する過程、すなわち歩行における運動の適応・学習を調べることができる。左右分離型ベルトトレッドミル、すなわち、左右のベルトが分離され、各ベルトを独立に制御できるトレッドミルは、そのような研究目的に適合した実験システムといえる。本年度は、正常無処置のラットを対象に、左右分離型ベルトトレッドミルにおいて後肢での2足歩行時の運動学について詳細に解析した。左右のベルトの速度が同一の条件、左右のベルトの速度比が1.5倍、1.7倍、2.0倍の際においては、ラットにおいてもヒトと同様に左右肢の相対位相や歩行duty比を調節していることが判明した。また、神経筋骨格モデルを構築するための筋・骨格系の解剖学的データを収集し、接地タイミングの予測的制御を小脳機能として組み込んだ神経筋骨格モデルを構築した。
2: おおむね順調に進展している
ラットをできる限り無拘束な状態で、後肢のみでの2足歩行を行わせる実験系を構築するのにかなりの時間を費やしてしまったが、ほぼ実験系は確立してきたと考えられる。
今後の研究として、脊髄小脳ループを構成する小脳虫部及び中間部のプルキンエ細胞の活動をムシモルやグルタミン酸受容体阻害薬を微量投与することにより可逆的に阻害し、運動学シナジーへの影響を調べる。また、筋シナジーの解析のために、後肢の主要な7筋群(腸腰筋、外側広筋、大臀筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋)の筋電図活動を記録し、記録した筋活動電位に対して両側の筋の時系列、片側の筋の時系列からなる行列を構成し、非負値行列因子分解を施すことで、両側・片側の筋活動を構成するパターンを抽出する。このように、ラットを用いた神経生理学的、運動学的解析と、解剖学的データから構築した神経筋骨格系の数理モデルによる動力学シミュレーションを用いて検証する構成論的手法を緊密に連携させることにより、歩行運動の際の環境の変化に応じた新たなスキルの発現と獲得における脊髄小脳ループの役割について統合的に理解することが可能になると考えている。
実験の進捗状況から、筋電位記録における電極等の消耗品の購入費用を次年度のために使用せずに保留したため。
筋電位記録のための電極等消耗品代として使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
体育の科学
巻: 65 ページ: 467-471
巻: 65 ページ: 461-466
Clinical Neuroscience
巻: 33 ページ: 763-766