研究課題/領域番号 |
15K01502
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
丹 信介 山口大学, 教育学部, 教授 (00179920)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動トレーニング / 発育期 / 海馬 / 運動強度 / 脳由来神経栄養因子 |
研究実績の概要 |
本研究では、発育期の海馬の形態や機能に好ましい影響を及ぼす運動トレーニングの至適時期や至適強度を明らかにすることを目的としている。今年度は、発育前期に相当する4週齢および発育急進期に相当する6週齢のウイスター系雄ラットを用い、乳酸閾値より明らかに低い低強度あるいは乳酸閾値を超える中・高強度のトレッドミルを用いた走行トレーニングを、それぞれ4週間(1日30分、週5日の頻度)行わせる運動群(4週齢低強度運動群および中・高強度運動群、6週齢低強度運動群および中・高強度運動群の4群)と同期間通常飼育のみの対照群(4週齢対照群および6週齢対照群の2群)を設定し、各群の腹側海馬容積および海馬容積に影響を及ぼすと推察される海馬脳由来神経栄養因子(BDNF)の変化について検討した。その結果、4週齢群では、低強度および中・高強度運動群の腹側海馬全体の容積は、いずれも対照群と差は認められなかったが、6週齢群では、低強度および中・高強度運動群のその容積は、いずれも対照群と比べて高値を示す傾向が認められた。一方、腹側海馬歯状回の容積は、4週齢群、6週齢群のいずれも対照群と比べて低強度および中・高強度運動群が高値を示し、その容積は、低強度運動群でより高値を示す傾向が認められた。また、海馬BDNF量(1mgタンパク当たりの値)は、4週齢群では、低強度および中・高強度運動群と対照群との間で差は認められなかったが、6週齢群では、低強度および中・高強度運動群のその量は、いずれも対照群と比べて高値を示した。以上のことから、腹側海馬歯状回の容積に対する運動トレーニングの効果は、発育時期にかかわらず認められるが、腹側海馬全体の容積および海馬BDNF量に対する運動トレーニングの効果は、発育時期により異なり発育急進期で高いこと、また、その効果に、運動強度の影響は認められないことが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
異なる発育時期に2つの異なる強度の運動トレーニングをそれぞれ行わせ、対照群を含め、設定した各群の海馬サンプルを採取することは計画どおり行うことができた。また、ウエスタンブロティング法により、シナプス形成に関与するタンパク分子やシナプス形成や神経新生に関与するとされている脳由来神経栄養因子(BDNF)の検出に取り組み、検出できることを確認した。しかし、その定量性にやや問題が残ることや検出されたBDNFの分子量が二量体のものだけであったことから、検出方法に関して、さらなる検討が必要であると判断した。そのため、今年度は海馬BDNF量のみ、ELISA法で測定を行うことにとどめた。また、昨年度実施できなかった腹側海馬領域の解析を今年度実施し、その容積の解析は行えたが、神経新生の程度や血管密度の変化についての解析は終了していない。これらの点から、達成度としては、やや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で終了していない腹側海馬の神経新生の程度や血管密度の変化についての解析を進める。また、ウエスタンブロティング法による検出方法の検討をさらに進め、シナプス形成に関与するタンパク分子および脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現量の測定を行う予定である。さらに、これまでの計画通り、異なる発育時期に強度の異なる運動トレーニングを行わせ、それぞれの運動トレーニングが、不安、うつ様行動ならびに空間学習・記憶能力にどのような影響を及ぼすのかという点について、各指標をそれぞれ評価する行動試験を実施することで、検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の実支出額は、当該年度の所要額とほぼ同額であり、ほぼ計画どおりに予算を使用している。感染性廃棄物の処理費が年度末に決定されるため、その額により差額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度の差額は、次年度の物品費(消耗品費)に繰り入れ使用する予定である。
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