本研究では、発育前期、発育急進期にそれぞれ相当する4及び6週齢の雄ラットを用い、低強度あるいは中・高強度に相当するトレッドミル走行トレーニング(1日30分、週5日)をそれぞれ4週間行わせる運動群と通常飼育のみの対照群を設定し、発育期の海馬の形態や機能に好影響を及ぼす運動トレーニングの至適時期や至適強度を検討した。 発育急進期の運動トレーニングにより、背側及び腹側海馬容積は増大あるいは増大傾向を示し、その効果は中・高強度運動トレーニングで高い傾向にあった。一方、海馬神経新生については、背側、腹側海馬ともに、発育時期にかかわらず中・高強度運動トレーニングで促進効果が高く、背側海馬では低強度の運動トレーニングでもその効果が認められた。しかし、血管密度に対する運動トレーニング効果は、少なくとも背側海馬では、いずれの発育時期においても明らかではなかった。 うつ様行動及び空間学習・記憶能力に対する運動トレーニングの影響は、いずれの発育時期、運動強度においても認められなかった。一方、不安様行動は、いずれの発育時期においても、低強度の運動トレーニングによる影響は認められなかったが、中・高強度運動トレーニングでは、不安様行動を高める催不安効果が認められた。 ELISA法により測定した海馬脳由来神経栄養因子(BDNF)の量は、発育急進期の運動トレーニングにより、強度にかかわらず増加が認められた。しかし、最終年度に実施したウエスタンブロット法による検討では、いずれの発育時期においても、運動トレーニングによる海馬BDNF量の明らかな増加は認められず、シナプス形成に関与するタンパク分子(シナプトフィジン、PSD95)についても同様に明らかな効果は認められなかった。 以上のことから、発育期の海馬の形態や機能に対する運動トレーニングの影響は、至適時期や至適強度も含め、一様ではないことが推察された。
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