身体冷却中の皮膚温や皮膚血管運動には男女差のあることが報告されている。それらの反応の性差は温度感覚にも影響すると考えられるが、温度感覚の性差が対象者に潜在していた冷え症に起因したものなのか、それ以外の身体的要因によるものなのかは明らかでない。人が環境に対して冷感などを覚えるときには脳活動が生じるから、これを計測すれば温度感覚の性差や冷え症の特徴を評価できると考えられる。非侵襲脳機能評価法である脳電図法(EEG法)を用いた先行研究において、手部への加温および冷却負荷中にα波およびθ波に変化の生じることが観察されている。しかしながら、身体冷却中のEEG活動の性差の検討や冷え症者を対象にした研究は行われておらず、検討の余地が多く残されている。そこで本研究では、健康な男性9名と女性9名との間で体の冷えに係る愁訴の程度に差のないように調整した上で、局所皮膚冷却に対する温度感覚と脳波(EEG)の応答に男女差があるか否かを検討した。また、全被験者を冷え症者と非冷え症者とにグループ化し、2グループ間でこれらの生理的応答の違いについて比較した。両側足背部の局所温度を33℃から23℃へ低下させてから再び33℃へ加温する冷却-再加温負荷を2回繰り返した。温度感覚の測定には視覚的アナログ尺度を用い、EEGは頭頂部で測定し、4周波数帯(θ波、α1波、α2波、β波)のスペクトルパワーを解析した。その結果、足背部皮膚冷却刺激に対する温度感覚応答には男女差がみられなかったが、EEGのθ波パワーの変化に性差がみられた。また、冷え症者は皮膚冷却刺激に対して高い冷覚感受性を示し、非冷え症者との脳活動の違いは低周波数α波パワー応答の差として表出することが示唆された。
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