本研究の目的は、従来の測定値に基づく物理特性的運動発達論を超えた動感志向的運動発達論を構築することであり、具体的な事例を通した検証作業が重要な課題であった。昨年度までの3年間の研究活動において一定の成果をまとめることができたことから、本年度はその成果を総合的にまとめながら発信(学会発表および論文作成)することが主要な活動目標である。 本年度の主要成果として、ひとつには子どものボール運動における判断力の発達傾向について同大学の奥田准教授と共同で研究した結果をヨーロッパ大学スポーツ科学学会で発表した。また、他者の運動発達を認識する能力の養成が本研究にとって不可欠の内容であることから、運動を実施している生徒や選手の動感志向性を理解する教師の活動の実践例を考察し、ドイツ体育学会で口頭発表した。なお、この研究内容は論文としてまとめ、同学会へ投稿した。この論文集は、今年度中には書籍として出版される予定である。さらに、今年度の科研費研究成果公開促進費の助成を受けて『現象学的スポーツ運動観察論』を出版した。この書は、本研究課題の研究領域に特化したものではないが、本研究の理論的骨子である動感志向性の分析方法を体系的にまとめたものである。 本年度の成果に加えて昨年度、ドイツ・ハイデルベ ルク大学のロート教授と筆者ならびに本学奥田准教授と共同でボール運動の発達に関する研究を進め、指導体系的にまとめた子どものためのボール運動の指導テキストである『子どものボールゲーム指導プログラム バルシューレ -幼児から小学校低学年を対象に-』を出版した。 これら一連の著作物を通して、従来の計測式運動発達認識の実践的不備を検証し、運動指導に直結する動感志向的運動発達論の構築のための理論的基礎を固めることができた。
|