研究課題/領域番号 |
15K01517
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
石垣 健二 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20331530)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 間身体性 / 間主観性 / 現象学的方法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、体育学独自の研究方法として「間身体的アプ ローチ」を構想し、その方法を具体的に明示することである。間身体的アプローチは、妥当な仕方で他者の身体(身体性)を理解する方法であり、理性的・知性的認識とは異なった身体的認識方法となるだろう。特に本年度は、実際に間身体的アプローチを構想するためのヒントを得るため、これまでの体育学の研究方法について吟味したうえで,現象学的方法の適用可能性を探ることを目的とした。 したがって,本年度の実施計画は、ⅰ)体育学における研究方法の批判的検討、ⅱ)哲学(特に現象学的方法)の適用可能性についての検討、を予定した。ⅰ)の内容に関わって明らかとなったのは,次のことである.体育学における自然科学的方法は,人間の身体運動を主観的な側面から記述しえない.その点において,マイネルのモルフォロギー的研究法は,主観的な視点から身体運動の固有性を捉えようとするが,結果的に客観的分析装置に頼って妥当性を確保するものである.また瀧澤の「体育学としての現象学的方法」は,現象学を忠実に適用しようとする点で,他者の身体運動の記述にも応用しうる可能性が示された.この内容は,体育哲学年報第48号(「身体運動を語りうるか:体育学における研究方法の検討」)に掲載予定である.また,ⅱ)の内容に関わって明らかとなったのは,次のことである.現象学とは,事象そのものへと遡及しようとする本質学であり,フッサールの現象学的方法は,おおよそ「現象学的還元」「形相的還元」「反省と記述」からなっている.体育学が他者の身体運動の本質を記述するためには,この方法を観察者の主観性だけでなく身体性によって捉える方法へと変容させる必要がある.この内容は,体育哲学年報第48号(「現象学的方法は体育学の方法となりうるか」)に掲載予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過年度までの研究において,本研究が構想すべき間身体的アプローチの対極に位置づくと考えられる間主観的アプローチの詳細が検討されている.間主観的アプローチは,精神分析的心理学や発達心理学などの分野で妥当性を得ている方法論であり,そこでは他者に帯する共感的分析が主要な方法として適用され,特に現象学的方法が大きな理論的根拠になっていることが明らかになっている.しかし,間主観的アプローチは,観察者の主観性に依存する方法であり,その主観性のみでは体育学が対象とする他者の身体運動の分析は困難であるという課題が生じている. そのような状況のなか,本年度は,まず現象学的方法について検討しながら,その妥当性の根拠を「現象学的還元」「形相的還元」「反省と記述」などの方法的手続きとして見出したうえで.体育学への応用の可能性を問うている.そして,他者の身体運動を記述するためには,観察者の主観性だけでなく身体性を重視しなければならないことを明らかにした.また,これまでの体育学の研究方法を批判的に分析し,自然科学的研究方法の問題性を指摘するとともに,マイネルのモルフォロギー的研究法や瀧澤の「体育学としての現象学的方法」についての課題を明らかにしており,間身体的アプローチを具体的に構想するために重要な論点が導出されたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,これまでに「間主観的アプローチ」「現象学的方法」「これまでの体育学の研究方法」について,その問題性と課題を明らかにしてきた.今後はこれらを総合的に考量しながら,他者の身体運動(とその本質)を妥当性のある仕方で論じるための方法を構想してゆく必要がある.それが,体育学独自の研究方法としての間身体的アプローチということになる. 間身体的アプローチを構想するために課題となるのは,間主観的アプローチや現象学的方法が観察者の主観性に依存した方法であるという点を限界を乗り越えることである.主観性のみによって他者の身体運動は捉えられないからである.他者の身体運動を精確に捉えるためには,観察者の主観性だけではなく身体性(身体の働き)を最大限に駆使するような方法が必要になろう.その身体性は,それまでの観察者の経験の蓄積が反映されるようなそのような働きでなくてはならない.しかし,そうであれば,それは極めて個人的な分析方法となる可能性がある.それをどのようにして妥当性のある方法として成立させうるだろうか.それについて論究しなければならない. 今後,この論究は,おそらく現象学的方法を応用することで,達成されることになるだろう.それは,現象学的方法を修正・変容することによって他者の身体運動の本質へと遡及するということである.その具体的内容は国際学会において公表し,その是非を問うとともに,学術論文としても学会誌に投稿する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を公表するために国際学会での発表を考えていたが,公務と重なり当該学会に参加できず,その経費が残額となった.その経費は,そのまま研究成果を公表するための国際学会への参加・研究発表にあてられる.
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