研究課題/領域番号 |
15K01519
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
福本 まあや お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (10464033)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソマティクス / ボディワーク / 体ほぐしの運動 / 舞踊教育 / 米国教育基準書 / 学習指導要領 |
研究実績の概要 |
本研究は「体ほぐしの運動」の理論的背景と指摘されるソマティクスを、その教育基準書に反映させた米国舞踊教育学会(NDEO)の試みを日米の舞踊教育との位置づけの相違を踏まえつつ明らかにすることを目的としている。当該年度は本研究の初年度で、2007年に改訂されたNDEO基準書の構造と内容を把握するとともに、NDEOが2012年に再検討した際の報告書の序文の読解と整理に取り組んだ。その結果次のことが明らかとなった。NDEO基準書(2007年版)は、K-12の各時期(4年生、8年生、12年生)における学習者の達成基準を上演、創作、応答、領域間結合の各項目において示している。中でも上演の項目にソマティクスの反映が色濃く見られ、呼吸、アライメント、動きの容易さ、ボディ・パターニング等のソマティクス用語を用いて動きのスキルや身体への気づきに関する達成基準が記されている。またソマティクスという語が、特定のボディワーク及び「楽に動くための原理」を意味する内容で用いられていることが確認された。再検討の報告書(2012)には、現状が既成ダンス作品の反復練習と上演に偏っていることが問題として提示され、芸術教育としての意義を達成する上で創造的即興ダンスの経験の重要性が強調されていることが注目された。同基準書にはラバン/バーテニエフ法の用語が頻出していることから、同ワークの短期研修への参与観察を作業に加えた。この参与観察とNDEO学会大会を通して、同ワークは現職教員を対象に実地研修が開催されておりソマティック教育のみならず、即興ツールとしてもその理論が用られていることを確認できた。NDEO基準書を読解する作業と並行して、わが国の学習指導要領や舞踊教育関連の先行研究等に表れた身体へのまなざしについて整理した。この成果は、NDEO学会大会及び韓国舞踊学会の2つの学会のシンポジウムで報告する機会に恵まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では想定していなかった国際学会シンポジウムでの成果報告が加わることで、日本の舞踊教育の流れがコミュニケーションの媒体として身体を捉える研究から、身体をコミュニケーションの主題・主体へと捉えるまなざしへと変化してきている様子を捉えることができた。また米国アリゾナ州で開催されたNDEO学会大会では、次年度以降に予定している実地調査協力者との打ち合わせを進め、また現地3つの高校のダンス授業を視察することができた。一方で国際学会シンポジウムでの成果報告の機会と所属大学の変更に伴う諸業務により、当初の作業計画にあったNDEO基準書の内容を国内の学会において報告することはできなかった。しかし同基準書を取り巻く米国の現場の状況について理解を深めつつ、頻出するラバン/バーテニエフ法の用語についての理解も進めることができた。以上のことから、目標の達成度として上記の評価区分が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、平成28年度には②NDEO基準書に反映されたソマティック教育の成分を抽出する段階、③米国の学校現場での実地調査の計画と現地協力者との調整を行う段階、④ソマティック教育の実際について米国の学校現場での実地調査を行う段階を設定している。おおむねこれらの作業を進めることが可能だと計画しているが、加えて28年度には前年度に完了していないNDEO基準書の概要を国内の学会で報告することを行いたいと考えている。この国内の学会報告の作業の進み具合によっては、米国の学校現場での実地調査を29年度前半に延期することも考えている。というのも、米国の学校教育における舞踊教育は各校の方針に大きく左右されていて、担当教員の考え方のみならずその児童生徒が属している民族・文化背景を考慮した教育計画が形成されていることが、昨年度の視察を通して捉えられた。同時に基準書に見られるソマティクス関係の用語は特定のボディワークの枠を超えた一般語になっており、フォークダンスや現代的なリズムのダンスといった教材の指導にも用いられ得る指導法の土台を形成しているように見られる。つまり、わが国の「体ほぐしの運動」における「調整」や「気付き」の指導法の改善につながる手がかりを示すことが、本研究の目的の一つにあったが、それにつながる具体的な教材をNDEO基準書、または米国のダンス授業に探すだけでは不十分であることが現段階で既に見えてきている。むしろ学習内容の区分や説明語に、ソマティクス用語が反映されている状況を、どのように整理し、実地調査の対象を定め提示するかが課題となっている。この課題については、NDEO基準書と日本の学習指導要領の記述内容の比較整理を通して解決の糸口が見つかると想定している。その上で、米国現地校の実地調査に進みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属大学の変更により、担当授業や勤務内容が変更したことで当該研究の調査及び作業結果の報告発表の、準備及び日程調整が困難となり、米国調査計画を短縮し国内学会での報告を次年度に回したため。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は、主に平成28年度12月開催予定の舞踊学会大会(宮崎)で平成27年度に予定していたNDEO基準書の内容を報告発表する際の費用に充当する。また、予算減額により実施計画の変更が必要となっていた米国出張費用の不足分に充当する。
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