前年度の成果論文に対する査読者から指摘を受け、本研究の当初の問題意識にある領域「体ほぐしの運動」(旧学習指導要領)の「気づき、調整」の方法論の一般化が難しいとされるに至った要因を探る作業を行った。同時にソマティクスという語の曖昧さという問題がどのように生じ、どのような語義の広がりがあるかを整理する試みを行った。 前者の作業は、領域「体ほぐしの運動」が定められた前後の時期(1990-2004年)の国内の文献資料を対象に考察した。結果、導入時期に指導心得として求められた「非操作性」という方針に対する現場指導者らの理解不足が、「気づき・調整」を招く指導法の混乱につながり、NDEO基準書に見られるソマティクスの成分すなわち「気づきのフォーカシング」を支える学習内容(解剖学的知識、運動学的知識)が日本では明示されない現状につながっていると考察された。 後者の作業は、米国の舞踊教育研究者らが依拠するソマティクス理論及び彼らの指導哲学を明らかにすることを通して行った。結果、T. Hannaの定義と同領域発展の方針を提唱したD.H. Johnsonの問題意識の幅が、語義の多様性と曖昧さを生じさせていると考察された。Johnsonらの論に依拠する研究者は、その学習経験が民主主義的社会の構築を根本から支えることにつながる学習として展開することを主張する。一方で内的な気づきを促すだけでソマティックな学びとする例も見られる。しかし米国舞踊教育研究者間に語義を整理統合しようとする学際的な動向は見られず、その理由としては、この領域におけるポストモダニズム的、フェミニズム的価値観が根底にあると考察された。 後者の作業よりソマティクスは西洋生まれのボディワークに限るという主張が確認されたため、野口整体をその影響を受けたとされる米国のBMCと比較し論文にまとめた。
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