研究課題/領域番号 |
15K01525
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研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
高野 牧子 山梨県立大学, 人間福祉学部, 教授 (30290092)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 身体表現 / レッジョ・エミリア / 環境設定 / レミダ |
研究実績の概要 |
「幼小連携」のカリキュラム構築に向け、特に身体表現教育に焦点を絞り、幼児期から学童期へとなだらかに接続する学習内容を検討するために、平成27年度はレッジョ・エミリア(イタリア)の調査研究を主に行った。2015年5月14日(木)~5月20日(水)まで、レッジョ・エミリア市(イタリア)にて、ローリス・マラグッツィセンターでの研修、ボローニャとミラノのレミダの見学、4つの幼児学校を視察した。成果として、次の3点があげられる。 1.レッジョ・エミリア市での幼児教育は美術表現の成果が日本では多く取り上げられているが、100の表現方法があるという理念の基、身体表現も盛り込まれていた。また、ダンサーのアトリエリスタやダンサーとの交流での学習なども行われていた。活動内容は題材や完成させた造形作品、光と影などから感じたままに子どもたちが身体で表現する活動であり、子どもたちの身体表現を引き出す環境設定がとても重要であった。一方、幼小連携は現在試行中であった。 2.レミダというシステムは、企業の廃材を芸術教育の素材として集め、必要な幼児施設及び個人が気に入った素材を表現の素材として活用するシステムである。集められた素材は、レミダという場所に、美しく色、形、大きさや材質など毎に分類し、展示されている。捨ててしまう物に新たな価値を付与し、再生するという理念があり、町ぐるみで子どもたちの芸術教育を支援している。子どもたちの表現を引き出す環境設定として素材提供するシステムを、身体表現も含めた芸術教育を支える取り組みとして、山梨で実施していきたい。 3.絵本の読み聞かせにおいても、保育者が絵本の主人公になりきって、身体表現でお話の内容を伝え、子どもたちはそれを見て、真似しながら一緒に動き、表現世界を堪能していた。言葉でストーリーを話すだけではなく、子どもたちの身体表現を引き出す保育者の身体表現性も大変興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レッジョ・エミリア市に出向き、4つの幼児教育施設を見学することができ、表現芸術を促す環境設定について具体的に理解することができた。特に通常非公開のScuola dell'ifanzia Giulla Maramottiは大変優れた園環境が印象的であり、保育の様子も観察することができ、保育者の具体的な人的支援や、子どもたち一人一人の表現活動を促す様子は示唆に富むものだった。ペタゴジスタと保育者2名にもインタビューし、ダンサー(アテルバッレット国立舞踊財団所属)が園を訪問して一緒に踊る活動やシアターにダンスを観に行く等の交流を行っていた。この他、3つの幼児施設も見学し、アトリエリスタにもインタビュー調査でき、非常に有意義な視察見学となった。 多くの事例で芸術教育の一環として、美術、音楽と芸術領域で分けず、身体表現が自然に取り込まれていた。特にプロジェクタを利用した光や影を環境構成とし、場と身体が対話できる空間は一人一人の身体表現を促す機会になっている。 また、身体表現は物としては残りにくい点から、写真や映像なども利用したドキュメンテーションとして作品を創作過程も含め、残していくことはとても重要である。さらに、身体表現を伴う読み聞かせのスタイルは日本でも実践できるものであり、子どもと保育者の身体を使った対話といえよう。 一方、街中で子どもたちの芸術活動を発表していたレミダデーだが、2015年は子どもたちの芸術活動はなく、市内の飲食店でのランチボックスの展示、フリーマーケット、国際写真展の合同開催のみであった。行われなかった原因としてレミダデーの内容が時代と共に変容している点と2015年はミラノ万博の方で子どもたちの活動紹介が行われた点が指摘できる。翌週開催されたレッジョ・ナラでは街中で、大人と子どもたちとの表現活動が開催されたそうで、次年度はレッジョ・ナラの視察を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度はレッジョ・エミリア市内各所で子どもたちのための芸術活動が行われるレッジョ・ナラを視察し、市民や芸術家たちが子どもたちとどのように関わり、その身体表現活動を促すのか明らかにする。さらに、新たな幼児教育施設3園を訪問し、具体的な知見を得ていくこととする。また、現地で新たな資料収集を行う。 当初の研究計画通り、日本において昨年度の調査結果に基づき、環境設定からいかに身体表現を引き出すのか、計画し、実践し、評価するPDCAサイクルを実施し、日本での援用を検討することとする。 実施対象は3か所設定する。第1には2歳児とその保護者とし、年10回を予定する。第2には3歳児とその保護者を対象とし、年6回実施する。第3は、対象年齢4~6歳とし、年4回、四季に応じて異年齢児で屋外での創造的な身体表現活動を実施する。 具体的には2~3歳児と保護者は、室内での活動とし、素材を提供し、親子で工夫して、表現活動を行っていく。ゴールフリーで多様な表現を志向するものである。対象年齢4~6歳児にたいしては、森の中でのインスタレーションの活動を計画し、実践し、評価する。子どもたちの身体表現を引き出す環境設定として、紙や布、光と影などを利用する予定である。また、評価者は、保護者への表現直後のアンケート調査、4~6歳児は子どもたち自身によるシール添付による評価、さらに一緒に活動を援助する保育者による感想と評価、そして指導者自身による自己評価など、多角的に活動内容を評価し、客観性をもたせることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
レッジョ・エミリア市への視察見学など実施したが、観察対象としたレミダは平成27年は内容が変容しており、教育的要素が非常に少なかった。一方、昨年度帰国後に行われていたレッジョ・ナラは街中で子どもたちとの表現活動が行われており、平成28年度はそれを研究対象とする。
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次年度使用額の使用計画 |
計画では平成28年度は日本での検証であったが、イタリア、レッジョ・エミリア市でのレッジョ・ナラの視察見学の必要が生じたため、平成28年度旅費として使用する。
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