研究課題/領域番号 |
15K01525
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研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
高野 牧子 山梨県立大学, 人間福祉学部, 教授 (30290092)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 身体表現 / 幼小連携 / レッジョ・ナラ / 実践の集積 / レッジョ・エミリア教育 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、イタリアでの現地調査と日本での実践研究を継続して行った。イタリア、レッジョ・エミリア市で開催されている「レッジョ・ナラ」についての現地調査では、幼児対象から、中学、高校生のパフォーマンスもあり、さらに障碍者や多国籍の方、病児まで対象が広がり、より多くの身体表現に関わる表現活動が繰り広げられ、街全体で表現者と鑑賞者を育む機会となっていた。ドキュメンテーション・センターには、レッジョ・エミリア教育を実施している幼児学校のこれまでの取組の資料が保管されている。その中で、Ernesto Balducciの資料を検索した結果、身体表現に関わる活動がされていることが確認できた。ドキュメンテーションとして残っていたのは、ヨガやバレリーナを園に招き、一緒に活動したものが多い。ただ、1回の活動で終わるものではなく、活動を重ね、多様に広げていいることが興味深い。マラグッチセンターのドキュメントセンター長にもインタビュー調査を行うことができ、幼児から小学校への接続教育について新たな知見が得られた。センター内に設置されている幼児学校と小学校は3歳~11歳まで26名が在籍し、異年齢交流を行うと共に、プロジェクト型学習が展開されているとのことであった。また、教師間、教師と保護者間などでのドキュメンテーションを通した情報共有と連携が丁寧に図られていることがわかった。さらに市の教育機関であるSEIは幼小を接続する機関として、市内の複数個所に設置され、誰もが必要に応じて利用でき、マラグッチセンターとも連携を図っている。複層的に子どもが選び、ニーズに応じて対応できるような工夫が市全体として取り組まれていることが提示された。 研究の成果については、保育学会での発表に加え、論文2本にまとめることができた。また、国際会議での口頭発表にもエントリーし、受諾されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イタリアで継続的に現地での研究をすることにより、新たな知見を得ることができ、研究としては深まっている。特に、街全体で子どもたちの創造性を育む中で、SEIという地域で子どもたちが放課後等に遊びながら学べる機関を設置し、学校の教育現場だけでなく、重層的に子どもたちの支援を行っている点が大変興味深い。日本における放課後児童センターが果たす役割に幼小接続の機能も加え、情報共有や相談支援、学習支援、芸術ワークショップ等、構造化できるのではないかと考える。 一方、日本における実践の積み重ねとして、3か所での実践は継続できており、レッジョ・エミリア教育から得た知見を基に、新たな身体表現の指導法について、検討を重ねている。 研究成果については、論文2本にまとめた他、IAPESGWマドリッド国際会議に口頭発表をエントリーし、審査の結果、受諾された。また、第72回日本保育学会にて、今回のイタリアでの調査結果については、ポスター発表のエントリーをし、受理されている。 しかしながら、当初の研究計画であったドイツにおける幼児教育と小学校への接続については、未着手であり、次年度にここを進める予定である。具体的にはドイツのミュンヘン近郊の「森のようちえん」2か所について、観察と取材許可をいただき、具体的に子どもたちと一緒に活動し、参与観察を行う。2園は全く異なるタイプの指導者によって運営されており、比較検討し、幼小接続に必要な子どもたちの育ちを考えていきたい。日本において「森のようちえん」の卒園児の接続の難しさが指摘されている。しかし、新学習指導要領で求められている「主体的、対話的、深い学び」は「森のようちえん」では日常的に実践されており、そこから小学校での学習形態へどのようにつないでいくべきか、検討していくこととする。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究成果の発表に加え、未着手であったドイツでの調査を実施する。 まず、研究成果については、第72回日本保育学会(2019.5.6.)にてポスター発表を行う。次いで、マドリッドで開催されるIAPESGWの国際会議(2019.7.10~13)において、これまでの研究の成果を国際会議で口頭発表する。さらにこれらの発表を基に、論文にまとめ、投稿する予定である。 一方、現地調査としてドイツにおける「森のようちえん」での活動について、現地調査を行い、自然教育で培われた力がその後の小学校等の教育のどのような基盤になるのか、検討していきたい。今回はシュタイナー教育の実践経験のある教諭がいる園とそうではない園の2か所を訪問し、活動を参与観察し、比較検討し、新たな知見を得ることを目的とする。 また、日本での活動は、これまでの3か所での継続的な実践に加え、幼児から小学校までの子どもとその保護者を対象としたワークショップを開催し、これまでの知見を基にした身体表現活動を実践し、より具体的に幼児から小学生への接続について、検討することとしたい。 本年が最終年度ではあるが、ドイツの調査等、新たに研究を進めた部分も多く、もう1年継続し、2020年に研究全体をまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、イタリアでの現地調査の実施に係る旅費と通訳についての費用が発生したが、早めに手配して安価な航空券と最小限の通訳に留め、節約を図った。 日本における実践研究については、これまでとおり、子育て支援施設で2歳児、および3歳児の活動を継続的に実施した。また「森のようちえん」においても、異年齢グループで身体表現活動を実施し、どのような身体表現を引き出せるか、検討した。さらに重症心身障害児施設においても引き続き年5回程度親子活動を展開した。これらの実践については負担金はなく、教材もこれまでのものなどを活用して行えており、費用負担は発生しなかった。 2019年度にはマドリッドで開催される国際会議(IAPESGW)での発表を予定しており、併せてドイツでの視察も行い、ヨーロッパへの渡航費を1回で押さえることとするが、一定額の支出費用が見込まれる。そのため、今年度での残金を翌年度に回し、有効に活用していく予定である。
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