研究実績の概要 |
熟練教師2名を比較した。 分析にあたって,教材教具,単元計画,そのほか授業を運営するにあたって必要な条件を統制した。 授業分析には,期間記録法,教師行動分析,教師の言語行動の質的分析を実施した。 その結果,期間記録,つまり,授業時間に有意な差は生まれなかった。計画通りに授業が実施されたことを意味する。 教師行動は,熟達者でない教師は,「直接的指導」「励まし」「合計」に有意な差がみられた。励ましの頻度はA教師の授業で1授業平均4.0回,B教師の授業で1授業平均10.1回行われ,有意な差がみられた(t=-4.541)。他方,フィードバックの頻度を比較すると,肯定的フィードバック,矯正的フィードバック,否定的フィードバックのすべてにおいて有意な差はみられなかった。ところが,学習内容に関わってのフィードバックは,熟達者の教師の授業では,頻繁に「学習内容に関するフィードバック」が行われ,1授業で平均30回であった。熟達者ではない授業では,単元の進行に伴い若干の「学習内容に関するフィードバック」の増加がみられ,1授業で平均19回であった。両教師の授業の間の「学習内容に関するフィードバック」では,有意な平均値の差がみられた(t=2.339)。 熟練教師の中でも際立って研究熱心な教師とそうでない教師を比較すると,授業の変数を統制し分析した結果,日々授業の実践力の向上に努めている教師は,授業で臨機応変・即応的に対応できる実践的知識を獲得していることが推察され,教師の経験年数が同じであっても,基本的指導技術が同程度であれ,教科,教材,子供,内容,学習指導等の「授業を想定した教材内容の知識」を向上できる環境に身を置くことは,教師の実践的知識を高めることにつながると考えられる。結果として,意図された学習成果には大きな差が生まれるのだろう。
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